「晴れたらいいね」

 

 

 

夜中は雨だったのに朝になったら止んでいた。


「…あ。雨、止んでる」

フランソワーズががっかりしたように肩を落とした。
落としただけではなく、朝だから起きましょうと起こしていた体を再び横にし、シーツに潜り込んだ。

「もうっ。つまんない」

シーツの奥から呪詛の声。
今日はもう知らない何にもしないと拗ねたように続く。

やれやれ。

別にいいじゃないか、晴れたって。洗濯物がよく乾くし。

「洗濯なんかしないもん」

今日の呪詛は長いな。

「ジョーのせいよ」

おっと。それはとばっちりだ。
言ったろ?僕にそんな力は無いって。雨を降らす力があるなら、とっくに使ってるさ。

「フランソワーズ」
「ヤダ。知らない」

シーツの上からフランソワーズの頭のあたりを撫でる。が、首を左右に振って僕の手から逃げる。
まったく。今日はずっとシーツに潜ったままでいるつもり?

「だって。雨が降ったらお出かけしたかったのに」

はいはい。新しいレインシューズな。
しかし、女の子って不思議な生き物だよな。どうして新しい靴ひとつにそんなにこだわるんだろう。
履く機会なんて、今すぐじゃなくてもいつかやってくるだろう。いつまでも雨が降らないなんて無いのだから。

「ジョーのばか」

だから、なんで僕のせい?

「ジョーが雨が嫌いって知ってるから降らないのよ。贔屓されてるんだわ」

何がだ。

「みんなジョーのほうが好きなのよ。天も味方しちゃうくらい」

…あのさあ、フランソワーズ。

「ずるいわ、ジョーばっかり」

あのなあ。

僕はため息をつくと、シーツの中を覗いた。フランソワーズの金色の頭だけが見える。

「フランソワーズ」

小さな声で呼び掛ける。
お姫様が拗ねている時は大変なんだ。

「……僕はフランソワーズのほうが好きだよ」
「…………」

フランソワーズがこちらを見る。拗ねた顔も可愛い。

――可愛すぎる。

反則だろう、それは。


「……ホント?」
「ウン」

シーツに潜っていたせいか、ほんのり上気した頬と軽く尖らせた唇。
ねえ、フランソワーズ。それって僕の大好物なんだけどどうしてくれる?


「……今日はもう何もしないんだよね」
「えっ?」


僕もシーツに潜り込むとフランソワーズと目線を合わせた。


「――お腹すいた」
「え、じゃあごはんの支度」
「食べていい?」

返事を聞かずに食べていた。だって、今日はもう何もしないって言ってたし。
だったら何もしなくていい。全部、僕がするから。

「え、ジョー、ちょっと」

ああ、晴れてよかった。今日もフランソワーズを独り占めできる。
雨に取られてたまるもんか。
フランソワーズは僕のなんだから。

「もうっ、ジョー」

雨乞いなんかしない。
雨降りなんかにフランソワーズをくれてやったりしない。

ずっとずっと晴れて、こうして僕と一日過ごせばいい。

そんな日が続くといい。

 

 

 

晴れているのに濡れてるねと言ったらすごーく怒られたけど。


「それはジョーのせいでしょ」


はい、そうです。