「砂だらけ」

 

 

 

「あちこち砂だらけね。帰ったら大変」

できるだけの砂を叩き落とし、僕達は帰途につく。
当初の30分だけのデートとはえらく掛け離れたものになってしまった。
フランソワーズは洗濯物がどうなっているのか心配としきりに言うから、僕も手伝うよと言うしかなかった。

「……ふふっ」
「何」
「ううん。なんでもない」

手をつないで互いにあっちによろけこっちによろけしながら砂浜をジグザグに歩いて行く。
砂が重くてけっこう辛い。体力が奪われてしまっているだけに。
しかしフランソワーズはずっと笑顔だった。しかも思い出すように嬉しそうに笑う。
いったい何を思い出しているんだろう?そんなに嬉しそうなことって……なんだ?

「やっぱり梅雨っていいわね」
「そうかなあ」
「そうよ」
「うーん……」

フランソワーズの梅雨好きポイントがわからない。だって僕はやっぱり晴れのほうが好きだから。

「――楽しかったもん」

何が?

僕があまりにもぽかんとした顔をしていたのだろう。フランソワーズは僕の手をぎゅうっと握ると、

「んもう、鈍感」

と言って、ぷいっと向こうをむいてしまった。

鈍感。
また言われた。
そりゃ僕は敏感ではないのはわかっているけれど――そんなに言うほど鈍感かなあ。

「――じゃあね、ジョー。鈍感なのの責任をとって……」

なんだ、鈍感の責任って。

「後で一緒にお風呂にはいること。いい?」

いいも何もそれって命令じゃないのか。

「う……ん」
「だってお互いに砂だらけなのよ?お風呂場だって砂砂になっちゃうし、掃除しなくちゃいけないでしょう」

なんだ。掃除要員ってわけか。

「ね?」

言って腕に絡むフランソワーズ。胸の柔らかさが腕に心地いい――が。ふだん、そんなことは滅多にしないから何だか違和感が残る。単純に喜んでいればいいのに我ながらややこしいと思う。
それを察したのか、フランソワーズがこちらを窺うようにじっと見上げてくる。

「――ね?」

その瞳が――さっきのような熱を帯びているように見えるのは僕の誤解だろうか。

「う。うん……」

さて、どうだろうか。

 

蒼い空の下、僕は曖昧に答えを濁した。