「お風呂場にて」

 

 

 

――声を出すの我慢しているフランソワーズって新鮮だね

なんて呑気に言って笑うジョー。ひとの気も知らないで。
だってお風呂場なのよ。声が反響するのよ。さっきみたいに誰も聞いてない――聞こえない場所とわけが違うのに。それに、声を我慢するのなんて今に限ったことじゃないじゃない。普段だってわりと気を遣っているのよ私。
もう。男のひとにはきっとわからないのね。だってジョーは。

お互いにシャワーを浴びて髪を洗いっこして肌についた砂を落としあって。
そうして湯船に浸かったら急に抱き締めてあちこちに熱い唇を押し付けてきた。
さっきまでそんな気は全くないみたいだったのに。

「んっ…ジョー、ちょっと待って」
「え。なんで」
「なんで、って…」

そうね。嫌じゃないし、期待もしていたわ。今日はもっとジョーと繋がっていたかったから。
だから、ジョーがそういう気持ちになっているのって嬉しいわ……だけど。

さっきより激しいのってどうなのよ?

ジョーは熱っぽくこちらを見つめ、可愛いよとか綺麗だよってたくさんの言葉を囁くから困ったことに反応してしまう。だって相手はジョーよ?掠れ気味のセクシーな声で囁かれたら簡単に落ちてしまう。
それをどうしてさっきは出さなかったのか謎だけど。
――まあ、雨が好きではないジョーだから、単純にあったかいお風呂が気持ちいいという理由だろうけれど。

「やっ、ジョー。それはっ……」
「ん―?」

だって、さっきたくさん愛し合ったから身体はその名残で敏感なままなのに。なのに、そんなの関係ないみたいに胸に吸い付くジョー。どうやらさっきは足りなかったらしく、しつこくしつこく吸い続ける。吸うだけじゃなくて舌先で転がしたり甘噛みしたり。
私はというと、声を押し殺すのが精一杯。だって……ねえ、さっきとは全然違うんだもの。
どうしてさっきこうしてくれなかったの。なんかちょっと怒ってもいいかしら。

「はあっ……フランソワーズ、可愛い……」

やっと唇を離したと思ったら、熱っぽい声で言ってキスしてくる。舌を絡ませながら、ジョーが私の足を開きその間に身体を滑り込ませてくる。そして確認するみたいに指を私の中に入れるとそのまま動かしてきた。

「んんっ、……」

電気が走るみたいに体がびくんと揺れる。

「だめだよ、いったら」

唇を離しジョーが耳を噛みながら言う。そんなこと言ったって。
言ったでしょう。さっきの名残で感じやすくなっている、って。

「そんなの、……無理っ……」
「しょうがないなあ」

何故か楽しそうに言うと、ジョーは指を引き抜きすぐに入って来た。
さっきより硬くて熱いのは何故?

お湯が波打つ。

ジョーがきつい。ああ、声が出ちゃう。ダメなのに。響くから――聞こえちゃう。
私は自分の手を噛んで声を押し殺そうとした――のを、ジョーに邪魔された。

「ダメだよ、自分の手なんか噛んだら」
「だって、声が」

ああもう、泣きそう。実際に涙が出てきた。だってこんなの、ジョーが意地悪すぎる。ばかばかジョーのばか。

「大丈夫だって――こうしていれば聞こえない」

そういうと、ジョーは私の唇を唇で塞いだ。
でもそれって解決になるのかしら。わからなかったけれど。
ジョーの動きに合わせて高まってゆく体内の熱を感じながら、私は――もう、声を出しているのか我慢しているのかわからなくなっていた。
頭のどこかでは、今日はもう誰とも顔を合わせられないわ、恥ずかしくてと思っているんだけど。
だけど、ジョーと繋がっているのが嬉しくて、ジョーが夢中になってくれているのが幸せで、なんかどうでもよくなっていたのも事実だった。

そうね。

もう今日は、このあとずっと――部屋から出ないで愛し合っちゃうっていうのはどうかしら。
だってどうせ恥ずかしくて部屋から出られないもの私。
ただ問題は――お風呂場からどうやって部屋までいくか、なんだけど。

ねえ、ジョー。何か作戦を考えている?
……いないわよね。だってジョーはいまそれどころじゃないんだもの。

ううん。私もなんだけど。

けいれんみたいに体が揺れる。
それを抱き締めたジョーの体がびくんと震えた。だから私もジョーを抱き締める。

一緒に弛緩して、抱き締めあったまま呼吸を整えた。

このぼうっとしている時間も好き。ジョーと一緒に夢見心地だから。
私たち、きっといま同じことを考えている。
お互いの鼓動が重なって、早鐘のように聞こえてくる。

「ふふっ……」

見つめ合って、そうして私たちは再びキスを交わした。
抜かないままのジョーがまた熱を帯びてきたのがわかる。――きりがないわ。

ねえ、ジョー。

このまま一緒にのぼせちゃう?

それとも頑張って部屋まで行く?

 

どうする?