「えと、――困ったな」
「大丈夫?ジョー」
「大丈夫というか・・・」


海の中で、抱き合ったままゆらゆら浮かんでいる。
かといって、ロマンチックなものとは程遠かった。程遠いくせに、私たちの距離は必要以上に近かった。
何しろ、お互いの間に隙間が存在しないくらい、ぴったりくっついているのだから。


「これ、どうなってるんだ?」


何度目かのジョーの質問に、同じように答える。


「どう、って・・・そのままホックを留めるだけよ?」

「しかし」

悪戦苦闘しているジョー。

私たちはあまりにもはしゃぎすぎて――私が、ほんとに華奢な水着を着ているということを忘れてしまっていた。だから、ビキニのトップスがはらりと解けた時は本当にびっくりした。
咄嗟にジョーが私を抱き締め、布が落ちないように――例え落ちても誰からも何も見えないようにしてくれた。そしていま、私の背中に腕を回し、ホックを留めようと一生懸命なのだった。


「――あれっ」


私の肩ごしに背に回した手元を覗くようにしていたジョーが声を上げた。


「フランソワーズ。残念なお知らせをすることになった」
「何よ、残念なお知らせって」
「ホックが壊れてる」


ええっ!?


「あっと、動くなよ。――なんでだろうなぁ。どうして壊れちゃってるんだろう?」


下着ならまだしも、水着の金具がそんなに簡単に破損するわけがない。
なので私は――ある結論に達したのだった。
何しろ、さっきからジョーは金具と格闘していたわけで――力の入れ具合によっては、簡単につぶれてしまう金具。ということは、壊したのは他でもないジョーその人に間違いない。


「・・・しょうがないなぁ」


確かにしょうがないけれど、いったいどうやって海からあがるの?

私の疑問に答えるように、ジョーは私を抱き締め――抱き上げた。
いわゆる、お姫様抱っこ。


「ジョー?」
「フランソワーズはちゃんとおさえてて」


はっとして胸から布が落ちないように抱え込むようにする。でも、そうするとジョーの首に腕を回せない。


「このまま浜にあがるしかないな。――大丈夫?」


大丈夫ではないけれど、ジョーがゆっくり移動してくれれば大丈夫かもしれない。
いつものように走られたら落っこちてしまう。

ジョーはゆっくりと、海のなかを移動し始めた。
腕の力は緩めない。大事に抱えていてくれる。
緊急事態とはいえ、じかに触れるジョーの胸は温かくて安心できたけれども、やっぱり――なんだか恥ずかしかった。

こんな格好で海からあがるカップルって、ちょっとイチャイチャし過ぎじゃない?

どんな風に見えるのかしらと思うだけで、頬が熱くなって心臓がばくばくしてきた。

ジョーだけは涼しい顔。

と、思ったらそうでもなかった。
口元に笑みが浮かんでいるものの、なんだか頬が染まっているし、なにより鼓動が早鐘のようだった。
でも、それらを差し引いても――なんだか嬉しそうなのはどうしてなんだろう?

彼の腕に抱えられながら、私の頭には疑問が渦巻いていた。


ねぇ、ジョー。

ホックが壊れたのって、もしかして――?