「ジョーの心配」

 

 

ジョーは非常に心配だった。
今は平成の時代であり、昭和の頃にあったような人種差別は存在しえないのだとしても、それでも心配だった。
何故なら、子供というのは無邪気なものである。そして、その無邪気さ故に自分達と異なるものを指摘し、声高に自分達とは違うと訴えるものであるからだ。


「ジョーったら。心配しすぎよ?」

フランソワーズに笑われても、彼の憂いは消えない。

「今は昔と違って、逆に人気者になるかもよ?」
「そうかなあ」

それでも珍しがられるのは必至であろう。

「――フランスに移住しようか」
「え!?」

ポツリと言われ、フランソワーズは目をみはった。

「ジョー。本気?」
「ああ」

確かに、彼の顔は至って大真面目であった。どうやら本気でフランスへの移住を検討し始めたようである。

「・・・そりゃ、私は構わないし。博士も別にどこでもいいって言うだろうけれど」

そう。
よくよく考えたら、「日本」にこだわる理由などないのだ。そもそも何故、日本に住むことになったのかも謎である。

「そうだろう?日本のように目も髪も黒いのが当たり前という所だから珍しがられるけど、他の国では目や髪の色は違っていて当たり前なんだ。――よし、決めたぞ!」

そう言うと、ジョーはすっくと立ち上がり、腕の中の彼女を見つめた。

「僕の好きな蒼い瞳をいじめるヤツは許さないからな」

腕の中の彼女が嬉しそうに笑い、手をのばしてジョーの顎に触れた。


――でもね、ジョー。今の日本では、そういう差別は無いし、むしろハーフって人気があるんですけど?

フランソワーズは公園での彼女の人気者っぷりに思いを馳せた。が、黙っていることにした。
そんな話をしたら、今度は別の方向へジョーの心配が及ぶだろうことは容易に想像できたからだ。


――過保護なんだから。


とはいえ、そんな彼が嬉しくて愛しいのだった。