「眠らない」
あっという間に秋がきた。 ギルモア邸を抜ける風も冷たく変わった今日この頃。 眠る。 眠る。 眠・・・ら、ない? 「ジョー。もう寝ましょう」 くるりと背を向けた彼女にジョーは追いすがる。 「まだ途中じゃないか」 シーツの中からくぐもった声が聞こえる。 「いい加減にして頂戴。もう眠いの」 ジョーは小さく息をついた。 「一人じゃできないんだよ。頼むよ」 フランソワーズはがばっと身体を起こしてジョーを睨みつけた。 「いい加減にして頂戴。毎日毎日、ゲームゲーム、って!そんなの博士かイワンに相手してもらえばいいでしょ?」 あっという間に組み伏せられるベッドの上。 「ひどいよなぁ。一人でもできるでしょう、なんてさ」 夜は長い。
人肌恋しいのは毎年のことである。
だから今日も、彼は彼女を抱き締めて眠る。
「嫌だ」
「そう。じゃあ、私は先に眠らせて頂くわ。おやすみなさい」
「ええっ、フランソワーズ」
「違います」
「違うって・・・。君は違っても僕は途中だ」
「何よそれ」
既に半分眠りに入っているかのようなフランソワーズの声だった。
「だってさ・・・」
「嘘ばっかり。できるでしょう、ひとりでも」
「まぁ、できなくはないけど・・・楽しくない」
「知りません」
「フランソワーズ」
「――ふん。残念だったねフランソワーズ。今日はゲームの話じゃないんだ」
「え?」
天井を背景に真上に見えるジョーの顔。
「え、あれはそういう意味じゃ」
「だめ。許さない」
「ん、ジョー、待って」
「ヤダ。こればっかりは――二人じゃないと楽しくない」