「ごめんね、フランソワーズ」
胸元の濡れたような感触で初めて気付いたなんて、我ながらどうかしていたと思う。 いくら防護服の色が保護色だったとはいえ。 あんなに流れるまで気付かなかった僕は、豆腐の角に頭をぶつけてどうかなってしまえばいいんだ。 つまりこれは、僕がとんでもなく間抜けという意味なんだ。
「ほんと、バッカじゃないの!?」
・・・容赦ないなあ。 そんな僕の心の声が聞こえたのか、蒼い瞳が燃え上がる。
「イワンが起きなかったらどうなっていたと思う!?」
いいじゃないか。起きたんだから。
「それは、あくまでも結果論でしょ!」
・・・怖いなあ。今日のフランソワーズは。
「胸を撃たれたのに気づかないなんて!」
そうなんだ。
「ほんとに、バカなんだから!」
そう言われても、本当に気付かなかったんだ。
「まったくもうっ、聞いてるの!?」
聞いてます。
「・・・もうっ!いつもそんな平気そうな顔して無茶ばっかり!」
本当に平気だからと言ったら、きみは怒るだろうか?
「・・・もう、いや。こんなのは」
あ。 やばい。
「・・・ひとの気も知らないで」
ち、ちょっと。フランソワーズ?
「気付かなかった私がいけないのよね。ジョーがバカなのはわかっていたんだから、私がしっかりしなくちゃいけなかったのに」
おいおい。あまりな言い分じゃないか。
「でも、知ってたら、自分で歩いてたわよ」
・・・きみには無理だったと思うよ。
「あんなに気が動転したのは初めてだったわ」
そうして、自分の肩を抱いて黙りこむ。
きみを救出に向かう途中で撃たれるなんて、とんだドジを踏んだ僕。 更に、それに気付かずきみを抱いて足場の悪い場所を走り、途中できみに気付かれた。出血しているということに。 イワンがいなかったら、僕は今頃ここにはいなかっただろう。 墜落する途中、抱いていたフランソワーズを渾身の力で上空へ放り投げた。 イワンに助けられ、ここメディカルルームの住人になってから三日が過ぎていた。 彼女の顔をみるたびに、やっぱり僕は豆腐の角に頭をぶつけておくべきだったと思う。
私がもっと早くあなたのケガに気付くべきだったと自分を責めるきみ。 まったく、僕はとんだ間抜けだよ。 本当なら、きみを颯爽と救出していたはずなのに。
「今度はこんなドジは踏まないさ」
かっこよくキメたのに。 フランソワーズは僕の両頬をつかんで引っ張った。
「どの口が『今度は』なんて言ってるの!」
痛いよ。僕は怪我人なんだから手加減してくれよ。
「今度やったら許さない。絶対絶対、許さないんだから!」
ああほら。 涙がひとすじ。
「・・・そうだね」
今度、同じ事態に直面したら、僕は怪我がきみにみつからないように注意するよ。
「ジョーのばかっ。そんなことで泣いてるんじゃないわ!」
じゃあ、なんだろう・・・と言ったら怒られた。
「無茶しないで」
・・・うん。
ごめんね、フランソワーズ。
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