―5―

 

どうやら口を滑らせていたらしい。

いや、海底でのことを話したおぼえは全くないのだが、いかんせん、話してない――というおぼえも全くないのだった。
何しろギルモア邸に帰り着いた時はくたくたで、言うなれば前後不覚の状態。倒れるぎりぎりで風呂に入り着替えをし、ベッドに倒れこんだ。そしてこんこんと眠った。
その間、フランソワーズがずっとそばにいてあれこれ世話をしてくれたのだけど、その時何を話したのかなんてまったくもって覚えていないのだ。
だから、ひょっとしたら、――海底でのことを洗いざらい話してしまっていたのかもしれない。

そう思ったら背筋が凍った。

だからフランソワーズはずっと不機嫌だったのだ。表面には出さなかったけれども(いや、僕が気付かなかっただけか)。海底でのことを心配し、呆れ、そして女性と一緒だったことで僕に不信感を持った。

――持ったのだろう、たぶん。

でも、あれは救出の手を差し伸べただけで僕に他意はない。
まったくもって、無い。

たぶんフランソワーズもそれはよくわかってくれていると思う。
だって僕たちは、そんな些細なことでケンカするような関係ではないのだ。

……はずだ。

いや、だってそうだろう?

僕がフランソワーズ以外の女性に惹かれるわけがない。そんな自分に出会ったことはないし、これから先も絶対に出会わないだろう。断言できる。
そして僕がそうであることをフランソワーズはじゅうぶんわかってくれているはずなのだ。

もしも僕たちが別れる日がくるとすれば(考えただけで涙腺がどうかなりそうだが)それは、フランソワーズが僕に愛想をつかした時だ。それ以外は有り得ない。僕からフランソワーズに別れを告げるなど、世界が崩壊しても宇宙が滅亡しても無いことなのだ。

だから、僕が他の女性と海で楽しく遊んでいた、なんてことは空想世界でも有り得ない。


そのへん、わかっているよねフランソワーズ。


「もちろんよ。ただロビンさんってどんな方なのかしらって思っただけ」


――意地悪だなぁ。


「知らないよ。覚えてない」
「あらそう?」
「そうさ」

僕の腕のなかにいるくせに、僕をいじめて嬉しそうだ。

でも、まあいいか。

こういう時のフランソワーズって実は物凄く……可愛いんだ。
だって、これってつまりヤキモチをやいてくれているわけで、ヤキモチをやくということは即ち、フランソワーズは僕のことを物凄く好きだという証明なのだから。

――だよね?

「さあ、どうかしら」

 

ああ、やっぱり意地悪だ。

でも

 

可愛いから許す(と、上から目線で言ってみる)。

 

「……何か言った?」

 

言ってません。ごめんなさい。