どうやら口を滑らせていたらしい。 いや、海底でのことを話したおぼえは全くないのだが、いかんせん、話してない――というおぼえも全くないのだった。 そう思ったら背筋が凍った。 だからフランソワーズはずっと不機嫌だったのだ。表面には出さなかったけれども(いや、僕が気付かなかっただけか)。海底でのことを心配し、呆れ、そして女性と一緒だったことで僕に不信感を持った。 ――持ったのだろう、たぶん。 でも、あれは救出の手を差し伸べただけで僕に他意はない。 たぶんフランソワーズもそれはよくわかってくれていると思う。 ……はずだ。 いや、だってそうだろう? 僕がフランソワーズ以外の女性に惹かれるわけがない。そんな自分に出会ったことはないし、これから先も絶対に出会わないだろう。断言できる。 もしも僕たちが別れる日がくるとすれば(考えただけで涙腺がどうかなりそうだが)それは、フランソワーズが僕に愛想をつかした時だ。それ以外は有り得ない。僕からフランソワーズに別れを告げるなど、世界が崩壊しても宇宙が滅亡しても無いことなのだ。 だから、僕が他の女性と海で楽しく遊んでいた、なんてことは空想世界でも有り得ない。
僕の腕のなかにいるくせに、僕をいじめて嬉しそうだ。 でも、まあいいか。 こういう時のフランソワーズって実は物凄く……可愛いんだ。 ――だよね? 「さあ、どうかしら」
ああ、やっぱり意地悪だ。 でも
可愛いから許す(と、上から目線で言ってみる)。
「……何か言った?」
言ってません。ごめんなさい。
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