「冷たいシーツ?」

 

 

 

「シーツが冷たくて眠れないの。一緒に寝てもいい?」


人の気配で目が覚めて、時計を見たら3時だった。
こんな夜中に誰が何の用だろうとドアを開けたらフランソワーズだった。

いいも何も。

ここのところ、ずっと一緒に寝てたじゃないか。
今日は独りで眠りたいのと言ったのは君の方だろう。

という台詞を全部飲み込んで、僕はどうぞと彼女を部屋に入れた。

まったく。

同じ邸内といっても古い建物だから、廊下に暖房は入っていない。
なのにそんな薄着でフラフラするなんて駄目じゃないか。

ほら、すっかり冷えてる。

と、彼女の肩を抱こうと伸ばした手をフランソワーズはするりとかわし、さっさと僕のベッドに潜り込み丸くなった。

――シーツが冷たいとかって口実じゃなかったのか?

僕は首を傾げながらドアを閉め、あくびをひとつするとフランソワーズの隣に滑り込んだ。
そもそもここは僕のベッドなんだし遠慮することはない。シングルで大人二人には狭いから、ぴったりくっついてないとはみ出てしまうのも僕のせいじゃないからな。

僕はフランソワーズの背中から腕を回し抱き枕のように抱き締めた。
柔らかくて温かい。フランソワーズの匂いはやっぱり落ち着く。

 

……ん?

 

温かい…?

 

あれ?

 

僕は目を開けてフランソワーズの体を触った。

冷えてない。

温かい。

さっき、「シーツが冷たくて眠れないの」って言ってたよな?
それって普通は体も冷えてるんじゃないのか?

いったい、どういうことだ。

フランソワーズのうなじを舐めながら考えた。

シーツが冷たくて眠れないのに、体は温かい理由を400字以内にまとめよ。


…まとまらない。


温かいし柔らかい。

あ、やば。

無意識に吸っていた。
慌てて離れたけれど、そこにはくっきり吸った痕が。
まずったなあ。見える場所にマーキングすると怒るんだよ。
冬だから関係ないだろと言って更に怒らせたのはごく最近の話。
まずいなあ。こすったら消えるかな。
指でそうっとなぞってみるけれどもちろん消えるわけがない。

と。

笑い声?

フランソワーズの肩が揺れている。

「もう、ジョーったらくすぐったいわ」
「寝てたんじゃないのか」
「だってジョーがあちこち触るから」
「むう。そんなに触ってないぞ」

全然本気じゃないし。

「それより、シーツが冷たくて眠れないとか嘘だろ。体は冷えてないし」
「あら」

フランソワーズは肩越しにちらちと僕を見て、体の向きを変えた。
改めて正面から僕を見る。蒼い瞳がいたずらっぽく煌めく。

「ええ。嘘よ」

僕の頬を指先でするりと撫でる。

「ジョーと一緒に寝たかったんだもん」
「今日は独りでって言ったくせに」
「そうよ、だから気まずかったんじゃない」

頬を膨らませ拗ねたように言う。気まずいとかあるわけないだろう。何年の付き合いだよ。

「素直じゃないなあ」
「素直じゃない子は嫌い?」
「いいや、大好物さ」

今度は熱くて眠れないのって言わせてやる。

フランソワーズの唇は既にとっても熱かったけれど。