「余裕?」
「フランソワーズ。君っていつも余裕だよなぁ」 物憂げに言うジョーに、フランソワーズはきょとんと彼を見返した。 「余裕?」 ジョーは埋まっていたソファから体を起こした。 「僕を夢中にさせるところ」 照れるだろ、と言ってジョーは再びソファに埋まった。 フランソワーズは小さく言うと手元の雑誌に視線を戻した。 ――そう。余裕なんかない。 「……あなたに愛されてるからよ、きっと」 小さく小さく言ってみた。 「ん?何か言った、フランソワーズ」 そうしてどちらからともなく手を伸ばし指先を絡め合った。
「うん」
「何が余裕なの?」
「……」
「?何に?」
「君に」
「夢中なの?」
「うん」
「ジョーが?」
「そう」
「私に?」
「うん。……何度も訊くなよ、恥ずかしいだろ」
「恥ずかしいことなの?」
「そうじゃないけどさ……」
前髪で表情を隠して。
「――余裕じゃないわよ」
あるように見えるとすれば、それは……
「んん。なんでもないわ」