「用意された朝食」

 

 

「――おはよう」

 

まだ完全に開いていない目をこすりつつ部屋に入ると、朝食の席には既にピュンマとジェロニモがいた。

「おはよう。――早いな、ジョー」
「ん・・・まあね」

生返事で椅子を引いて座る。

「良い心がけだ」

ひとり頷いて食事に戻るピュンマを横目に、ジョーは小さく息をついた。
ちゃんと起きないと、いつまた謎の実験のイケニエにされるかわかったものではない。
なので、ここ最近は務めて早起きを敢行しているのだった。誰の手も借りずに。

ぼんやりと目の前の朝食を見つめる。

「・・・今日はホットケーキ?」
「いや、パンケーキだ。――ま、同じだけどね」

ジェロニモが無言でメープルシロップをジョーの方に押し遣る。

「あ、僕はメープルじゃなくてハチミツだから」

言ってテーブルの上に目を走らせる。が、いつも用意されているそれは今日は出ていなかった。
思わず顔を上げてリビングをぐるりと見渡す。

「フランソワーズを見なかったかい?」

姿がない。
ベッドからは既に姿が消えていたから、てっきりここに居るものだと思っていたのだ。

「さあ。さっきまでいたけど?」

ピュンマがパンケーキを頬張りながら言う。
ジョーは、ハチミツはどこにしまってあったかなぁと思いながらキッチンに向かった。

 

***

 

「・・・なにやってるの?」

 

ジョーはキッチンの入り口で立ち止まっていた。中に入れない。

「あ、ジョー。ね、手伝って」

探していたものはキッチンに揃っていた。
フランソワーズとハチミツと。

「手伝って、って・・・」

正確には、ハチミツのかかったフランソワーズがそこに居たと言うべきだろう。

「ジョーはハチミツ派でしょう?でもいつものが空になってたから、詰め替えようとしたのよ」

それが、手が滑ってハチミツの入った容器を引っくり返してしまったのだという。
頬とエプロンに飛び散ったハチミツ。キッチンテーブルの上にも広がり、床に向かって流れている。

「そういうわけだから、今日は我慢してもらえる?」
「我慢?」
「だってハチミツが全部こぼれてしまったもの。――後で買いに行くから、今日はメープルシロップで」

我慢してね、と言い掛けたフランソワーズはジョーの顔を見て固まった。

「・・・ジョー?」
「我慢なんかしないよ。僕の朝ごはんがちゃんと出来てるんだから」
「えっ、ちょ、何言って――」

ハチミツのかかったフランソワーズ。

 

いただきます。