「習慣」
〜着せて。履かせて。〜

 

 

「これ、要らないよね?」

ひょい、と床から拾われたそれが目の前をよぎった時、フランソワーズは慌てて腕を伸ばした。

「駄目っ!それ、私の!」
「ふふん、遅かったな。これは僕がもらった」
「嫌よ、返して!」
「やだね」
「返して、ってば」

腕を伸ばしてジョーにかじりつくものの、ジョーはフランソワーズの頭を片手で押さえて動きを簡単に封じてしまう。

「うーん。僕としてはどれも好きだけど、今日のこれは勝負パンツ?」
「違うわっ、もう、見ないでっ」

しみじみと観察されるそれにフランソワーズの頬が朱に染まる。

「いっつもそんなに見ないくせにっ」
「うん。だからたまにはね」
「興味ないくせにっ」
「失礼な。興味はあるぞ、男だからな」
「嘘よ、見向きもしないじゃないっ」
「よーく見てますよ、僕は」
「見てないでしょ!すぐ脱がすくせにっ」

ジョーはちらりとフランソワーズを横目で見ると、掴んでいた下着を指から離し、と同時にフランソワーズを押し倒した。

「――起きるのやめた」
「なによそれ」
「眠い」
「何言って――ちょっとジョー。重いっ」
「寝る」
「だからって何も私の上で寝なくてもいいでしょうっ」

しかし、まともに体重をのせてくる最強のサイボーグには手も足も出ないのだった。
特に、ただなんとなく身を乗せているように見えて、実は巧妙に動きを封じているとなれば尚更だった。

「・・・ジョー。そろそろ起きなくちゃって言ったのはあなたよ?」

確かにそう言って身体を起こし、床に散乱しているふたりの衣服をより分けていたのだった。

「――気のせいだ」
「違うでしょう。ほら、サーキットに行くんじゃなかったの」
「休む」
「駄目よ。ほら、起きて」
「ヤダ」
「ジョー?」
「ヤダヤダ」

――全くもう。子供じゃないんだから。

胸の裡で言って、フランソワーズはそっと息をつく。

「――フランソワーズ」
「なあに?」
「本当は勝負下着なんだろ?」
「違います」
「だってあれ初めて見た」
「でも違うもの」
「そうかな。可愛かったけど」
「それはありがとう。でも違うわよ。どうしてジョー相手に勝負しなくちゃいけないの?」

するとジョーは少し身体を浮かし、フランソワーズの顔を覗き込んだ。

「それってつまり、中身で勝負ってこと?」
「――ばか」