「眠れないのは誰のせい?」
〜「勝利の女神をお迎えに」・日本直行便機内で〜

 

 

眠れなかった。

持って来た本も、機内放送の映画も、どれもちっとも集中できなくて、結局私はずうっと彼の事ばかり考えてしまっていた。

彼――島村ジョーのことを。

こんな行動に出るのは初めてだから、いったい彼は何と言うだろうか気になって仕方なかった。
いっそのこと、本当に顔だけ見て声を掛けずにすぐ帰ろうかしら。そうも思った。
でも――きっと顔を見たら、声を聞きたくなってしまう。こっちを向いて欲しくなってしまう。
きっと・・・我慢できない。

 

大好きで。

 

愛しくて。

 

放っておいても後は日本に着くばかりの直行便。
予定通りなら、数時間後には――ジョーに会えるだろう。

ジョーの前ではいつもキレイで可愛くしていたかったから、寝不足のまま会うのは避けたかった。
だけど、やっぱりどうしても眠れなかった。

F1第4戦で別れたあと2週間とちょっとしか経っていないけれど、それでもやっぱり会いたかった。
だから、彼の誕生日にかこつけて日本に行くことにした。大義名分があってちょうどいい。

・・・でも。

実はジョーに知らせていないから、少しだけ不安だった。

 

彼は何て言うだろうか。

 

・・・ううん。違う。

ジョーの反応がどうであろうと私には関係ない。そんなことで左右されたりはしない。だって私が内緒で勝手に日本へ向かっているのは、私がジョーの顔を見たかったからなのだから。
だから――顔を見たらすぐ帰ればいい。
誕生日なんて、ジョーにだって予定が既にあるだろう。あるいは、女の子と二人で過ごすつもりなのかもしれないし。

ジョーの恋人は私よ。と胸を張ってみても、自信が沸き起こるはずもなかった。
こんな――遠距離なのに、滅多に会えないのに、恋人なんて言っていいのかわからない。
ジョーにはもっと近くに彼に合う女の子がいるのかもしれなくて、たまにしか会えない私は彼の中では都合のいい異性の友人止まりなのかもしれなかった。

それでもいい。

そう思って割り切っているつもりだった。

でも。

やっぱり、ジョーの姿を見ると苦しくなった。会うたびに。

独り占めしたくて。
私だけを見て欲しくて。

君だけだよという彼の言葉を信じられたら、どんなにいいだろう。

・・・ジョー。

会えるだろうか。
突然来た私を、困って持て余すだろうか。

あるいは――不在だろうか。

それなら、それでいい。
私は、自分がそうしたいから今日本へ向かっているのだから。
どんな結果が待っていようと、そうせずにはいられなかったのだから。

会いたい気持ちを抑えるのは何て――難しいのだろう?