「初恋のひと」
「それはきみさ」
よく言うわ。 どう考えても嘘のようなセリフをさらりと言うひと。 にこにこして全く悪びれず、屈託ない顔をしているけれど。 私は絡みついてくるジョーの腕をかわしながら、彼を横目で見た。 絶対に嘘なの、わかっているけど。
「きみは?」
私?
「うん。きみの初恋のひとは誰?」
・・・それは。
ジョーはにやりと笑うと、私を腕のなかに捕獲した。 「兄さんかい?」 まるでそれが正解のように言う。 「・・・そう言って欲しいの?」 力が緩んだ隙にするりとジョーの腕の中から抜け出して。 「フランソワーズ」 なによ、初恋のひとなんて。ずうっと昔の話じゃない。 気持ちを伝えられず遠くから見ているだけの恋だった。 だからジョー、あなたが初恋じゃなくて良かったと思っているのよ? 遠くから見てるだけなんてイヤ。
「・・・初恋じゃなきゃダメなの?」 「だってジョーは」
初めての、本気の恋の相手だから。
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