タクシーの中で携帯電話が振動した。が、出なかった。 ぼんやり車窓を眺めていたフランソワーズは、携帯電話の振動が落ち着いてから物憂げにそれを開いた。
「お客さん。そろそろですがこのへんで宜しいので?」 運転手の声に答えてから、ちらりと携帯電話に目を走らせた。 着信の表示があって、そして―― 「――?」 眉間に微かに皺が寄った。
***
――まるでお城みたいね。 くすりと笑んでから、携帯電話を耳にあてて伝言ボタンを押した。
と。
「フランソワーズっ!!」
電話からではなく肉声が耳に響いた。辺りは物音ひとつしないから、その声だけが反響しとても大きく聞こえた。エントランスから自動ドアが開くのももどかしく転げでてきたのは 「・・・ジョー」 険しい瞳がまっすぐ射る。 「・・・どうしてここに居るのがわかったの」 遮るように言われ、ジョーはフランソワーズの顔を見た。 「・・・ごめんなさい。でも、やっぱり私・・・」 笑っているように思えた顔が歪む。 「・・・日本にいるのに。ジョーに会えないなんて、そんなの・・・」 言いかけたジョーの唇をひとさしゆびで押さえ、携帯電話のボタンを押した。 「・・・聞こえた?」 ふてくされたように答えるジョーに、フランソワーズはその伝言を歌うように復唱する。 「『会いたい。フランソワーズ。もう限界だ』」 そっぽ向くジョーの耳が赤い。 その耳にフランソワーズは囁く。
「――私も限界だったの」
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