「たまにはいいよね」

 

 

――イヤだ。

 

嫌だ。

 

嫌だよ、フランソワーズ。

なんで――どうして。

 

 

僕はフランソワーズに抱きついたまま離さなかった。

そんな僕の髪をフランソワーズは優しく優しく撫でている。
まるで――そう、聞き分けの無い子供をあやすみたいに。

そして言うのだ。優しい声で。


「ジョー。お願い。・・・いつものことでしょう?わかって」


――わかりたくない。


こんな――よそゆきの声で言われたって、信じるもんか。
何がすぐまた会える、だよ。そんなこと誰が決めた。本当に会えるのかなんてわかりはしないのに。


すぐまた会えるって、――絶対に?


本当に?


約束できるのか?


「もう・・・ジョー?」


嘘吐きのフランソワーズには何も答えてやるもんか。どうして本当の事を言わないんだ。

――離れるのは嫌だ、って。

これじゃあまるで、正直になった僕だけが悪者じゃないか。


「ジョー?ねえ」


すぐまた会えるんだし。
永遠の別れじゃないんだし。
そもそも私たちはいつもこうして離れても、すぐまた会えるでしょう?

フランソワーズの声が言う。よそゆきの、嘘吐きの声で。
こんなこと、君が本気で言っているはずがない。僕にはちゃんとわかる。


「ジョーったら。・・・いったい今日はどうしちゃったの?」


聞き分けの良い恋人をしたくないだけだ。


「いつもは、あなたのほうが」


僕のほうが何だって?


「――あなたのほうが、・・・あっさり手を離すくせに」


その声と共に僕の頭のてっぺんに何かが降ってきた。
埋めていたフランソワーズの胸から顔を離し見上げると――

「・・・なんで泣くの」
「わからない。・・・ジョーがワガママばかり言うから」
「僕のせい?」

フランソワーズは目を伏せるとこっくりと頷いた。涙は粒になって僕に降り続ける。

「――いつもと違うんだもの。私、どうしたらいいのかわからないわ・・・」
「いつも君はどうしてたっけ」
「・・・知らない。忘れてるなんて酷いわ」
「忘れてないよ。――そうじゃなくて」

僕は立ち上がると、泣いているフランソワーズを胸に抱き締めた。

「僕だってたまには言ってもいいだろう?――離れたくない、って」
「ずるいわ」

決めセリフだったのに、フランソワーズは全く意に介さず僕の胸に顔を埋めたまま泣いている。

「だって――あなたに先に言われたら、私、言えなくなっちゃうじゃない・・・」


――ああ、そうか。・・・そうだね。

ごめん。

 

でも――本当にそう思っているんだよ?

いつもは我慢しているけれどね。