「カフェラテ」

 

 

「はい、どうぞ」


目の前に置かれたカップの中身は、ラテ。
泡立てたミルクの上にキヤラメルソースでハートマークが描かれていた。

「…カフェみたい」

どこかのお洒落なカフェで出されるようなラテだったから、フランソワーズはそう言ってみた。
頬杖をついて様子を見守っていたジョーは笑みを湛えたまま、そうかなと答えた。

「あなたってこういうこと、得意じゃなかったわよね…?」

お茶をいれるのも、どうかするとメンドクサイと言って買ってくるのに。
いったいどういう風のふきまわしだろうか。

あるいは。

こういうラテを好むひとから教えてもらった。とか。

口をつけてみると甘かった。
女性が好む甘さである。

「ねぇジョー、これって…」

誰から教わったの?

そう訊きたいけれども、訊くのが果たしていいことなのかわからない。
もしかしたら、知らないほうが幸せかもしれない。

フランソワーズが迷っていると、ジョーがくすりと笑った。


「気になる?」

 

 

***

 

 

「別に」


つんとして答えたフランソワーズにジョーは少し驚いたようだった。

「訊かないの」
「ええ。美味しいわね。このラテ。また作ってね」
「…いいけど…」

ジョーは眉間に皺を寄せるとそれきりむっつりと黙りこんだ。
フランソワーズは涼しい顔でカップを口に運ぶ。

そして。

「美味しかったわ、ごちそうさま」

けれどもジョーは黙したまま答えない。
そんな彼をちらりと見た後、フランソワーズは立ち上がった。
カップをキッチンに持っていくのだろう。そうぼんやりと思っていたジョーだったが、

「おばかさん。妬かないからって落ち込まないの」

背中から首に両腕を投げ掛けられ驚いた。

「別に落ち込んでなんか」
「ふふ。そうかしら?」
「そうだよっ」

そっぽ向くジョーの頬に頬を寄せてフランソワーズは小さく言った。


「ホントは妬いてるわよ。とっても」

「!」


ジョーが何か言いたそうに身をよじったが、フランソワーズは彼の首に回した腕にちからを入れた。
ジョーの喉が詰まる。

「でもね、いつもこういう思いをするとこうしたくなっちゃうの。どうしてかしらね?」

ジョーはフランソワーズにされるがままである。

何も言わない。

抵抗もしない。


「ねぇ、ジョー、聞いてる?」

不審に思ったフランソワーズが彼の顔を覗き込んだ。


「んもうっ、どうしてにやにやしてるのよっ」


フランソワーズに首を絞められたからといって、どうということもない。
ジョーにとってそれは、ただのじゃれあいに過ぎなかった。


「もうっ、いやなジョー!」