超銀「カフェでよそ見」
ジョーに会うのは久しぶりだった。 レースも後半戦に入り、忙しさも加速していてなかなか会うことができない。 そんな二人の時間はとても貴重で、今日もほんの少ししか会えないけれどこうしてカフェにやってきたところだった。 メニューを差し出され、何にするか迷う。 「ねえ、ジョー。あなたお腹空いて」 空いてる?と訊きかけた私の声は途中で止まってしまった。 ――ふうん。なるほど。 そっとジョーの手の上に手を置いてこちらに注意を戻させる。 「いま、よそ見してたでしょ」 まあ!認めちゃうの? 「――誰を見てたの」 嘘ばっかり。 「あら。私は目の前にいるでしょ?でもジョーと目が合わなかったわ」 そうだね、って…。 あまりにもあからさまな嘘にはどう対処すればいいのだろう? なんだか情けなくなって、私はここで泣いたらいいのか怒ったらいいのかわからなくなった。 すると、ジョーがにこにこしながら言ったのだ。 …なんだか嫌な予感。 変態だわ、この人。 なんていうか、マニアックな変態。 だってね、デートのさいちゅうによそ見していたのが窓ガラスに映る恋人の背中って…どうなのよ? ああもう。 まっすぐな視線に負けて目を逸らせたのは私のほうだった。 (通り側が一面ガラスになっているカフェ)
遠征続きだし無理しなくていいわと言うとジョーが拗ねるので、下手に気も遣えない。
だから、ジョーが時間を作って会いに来るときはなるべく一緒にいられるようこちらが調節するしかなかった。
とはいえ、私だっていつもからだが空いているわけではないから断ることもある。
「フランソワーズ、先に見ていいよ」
お茶だけでもいいのだけれど、お腹も空いているといえばいえるし。
ジョーだってもしかしたら何か食べたいかもしれない。だったら、私が飲み物しか頼まなかったらきっと戸惑うわ。
顔を上げてそっと見た目の前のひとは、じっと窓の外を見ていたのだ。
もちろん、外を見ているのは構わない。
ただ。
その表情がなんだか楽しそうでちょっと気になった。
いったい何を見ているのかしらと視線を追うと、その先には綺麗な女性の二人組。
「ジョー」
デートのさいちゅうに他の女性に目がいくなんて、いったいどういうつもり?
「うん」
「フランソワーズ」
「うん。そうだね」
大体、寸暇を惜しんで会っている貴重な時間なのに、どうして他の子に目がいくの?
それって私に魅力がないってこと?
「フランソワーズの後ろの窓ガラスにね、後ろ姿が映ってるんだよ」
え。
「誰の」
「そりゃもちろんフランソワーズに決まってるだろ」
「……」
「僕のフランソワーズは後ろ姿も綺麗でかわいいなあってさ」
変態。
私は黙ったままジョーの嬉しそうな顔をじっと見つめた。
にこにこしているジョー。
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