「愛の告白」

 

 

「・・・えっ?」


ジョーは読んでいた雑誌から顔を上げた。


「何だって?」

「だから」


フランソワーズはテーブルに両手をついて身を乗り出した。


「愛の告白よ!」
「愛の・・・告白?」
「そう。ジョーは言えないでしょう?」
「なぜ?」
「日本人だから。慣れてないでしょう、そういうのって」
「・・・別に」

ジョーは雑誌を閉じると立ち上がった。

「そういうのは個人の問題だと思うけど」

そうして窓辺に近付き、大きく伸びをした。

「突然、なに?」
「そういえば、ジョーからは聞いたことないなぁって思ったの」
「・・・ジョーからは?」

ジョーの眉間に皺が寄った。

「聞き捨てならないな。それって僕以外のヤツからは愛の告白とやらを聞いたことがあるみたいに聞こえるぞ」
「だって、あるもの」

さらりと答えるフランソワーズにジョーは内心焦った。

「・・・へぇ」

焦ったが、特に興味がないように答えた。

「もてるね」
「ええ、もてるのよ私」

対するフランソワーズも負けずに平然と答える。

「だから、愛の告白をしていないジョーは不利だと思わない?」
「なぜ?」
「普通、疑うでしょ?どうして何も言ってくれないのかしら、って」

いったん言葉を切ってジョーの様子を窺うが、何も言わないのでフランソワーズは小さく息をつくと続けた。

「私の事なんて何とも思ってないんじゃないかしら、って」


ジョーは何も言わない。


「だったら、ちゃんと言ってくれる人の方が安心できるもの」
「・・・安心したいんだ?フランソワーズは」
「女の子なら誰だってそうよ」
「僕が訊いているのは一般論じゃないよ」


フランソワーズはジョーを見た。

ジョーもフランソワーズを見る。


「・・・安心したいわ」

「・・・そう」


だったら、言ってくれるヤツの元へ行けばいい。


ジョーは胸の中で思ったけれど、声には出さなかった。
声に出したら、本当にフランソワーズはそうしてしまいそうで怖い。
ただのヤケクソで言うには危険すぎる賭けである。

だから、黙った。

 

愛の告白。

 

フランソワーズとしては、だったら言うよとジョーはあっさり言うもんだと思っていたのだ。
だから、彼が何も言わずにいるのは誤算だった。


「・・・言ってくれないの」

「言って欲しいの」


フランソワーズはジョーを見た。

ジョーもフランソワーズを見る。


しばしの沈黙。
それはほんの数秒だったか、あるいは数十分だったのか。
ふたりにとっては一瞬とも永遠ともとれる時間が経過したのち、沈黙を破ったのはフランソワーズだった。


「・・・いい。言わないで」


安心したいから一緒にいるわけではない。


「言ってもいいけど?」
「嫌。言わないで」
「言えといったり、言うなといったり、忙しいね君は」
「だって気が付いたんだもの」
「何に?」
「・・・私、」


フランソワーズはジョーの唇を塞いでいた。
ジョーもそれに応える。


――言わなくても、大丈夫。


わかってるから。


わかってるだろう?

 

唇を離して、額を合わせながら言う。


「・・・知ってるくせに」

「ええ。知ってたわ」


くすくす笑うフランソワーズ。

ジョーも一緒に笑った。

 

 

 

 

 

「・・・愛してるよ」

 

 

 

 

超銀トップへ