「アヒルのいるバスルーム」

 

 

「ねぇジョー。訊いてもいいかしら」


風呂からあがったフランソワーズはバスタオルを体に巻き付けただけの格好で、ジョーのいるリビングにやってきた。


「いいよ。何?」


ジョーの視線を感じつつ、背中に隠し持っていた黄色いアヒルを差し出す。


「これ、この前はなかったわ」
「・・・そうだね」
「ジョーってこういうシュミじゃないわよね?」
「うん」
「だったら、どうして・・・」


語尾が細くなり、消えてゆく。

こういうものは、大抵が女性の好みのはずである。
そして、一人住まいの男性のバスルームにあるということは、それはつまり誰かが持ってきて置いていったということで。
更に言えば、その誰かはジョーのバスルームを頻繁に使うような仲だということになる。

フランソワーズの心は沈んだ。

あるいは、ジョーがもっと慌ててくれたら良かったのかもしれない。
しかし、平然と当たり前のように認められてしまった。

つまりそれは、ジョーの家のバスルームを使うことが当たり前の女性が存在するということで・・・


「気にいった?」
「えっ?」


怪訝そうに眉を寄せるフランソワーズにジョーは困ったように頭を掻いた。


「そういうの、確か好きだったよなーって思ってさ。思わず買ってしまった」
「・・・思わず、って・・・」


ジョーは微かに頬を赤らめると、怒ったように続けた。


「全部のアヒルと比較して一番可愛いのにしたんだからな。大事にしてもらわないと困る」
「店にあるの全部と比べたの?」
「まあな。フランソワーズのなんだから、一番可愛いのじゃなくちゃ駄目だ」

「・・・ジョーったら」

どんな顔をして選んでいたのだろう?
そしてその間、誰の顔を思い浮かべていたのだろう?

腕に飛び込んできたフランソワーズの髪に顔を埋め、ジョーは耳元で小さく言った。


「いつでも君の事ばかり考えているよ」
「もうっ・・・嘘ばっかり!」


くすくす笑うフランソワーズ。

だが、ジョーの興味は既に、アヒルからフランソワーズのバスタオルに移っていた。

 

 

 

 


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