「アヒルの居場所は?」

 

 

「・・・もしもし?フランソワーズ?」
「あら、ジョー」

怒っているような剣呑な声音のジョー。
それに対し、何の屈託もなく明るく答えるフランソワーズ。


日本とパリ。

フランソワーズがパリに戻ってすぐの事だった。


「どうしたの?」


忘れ物でもしたかしら?
フランソワーズは考える。
何故なら、別れてすぐに電話をしてくるなんて、とても珍しい事だったのだ。


もしかして、寂しいとか、会いたい・・・とか言うつもりかしら?


なんだか楽しくなる。
そんなフランソワーズと対照的にジョーの声は暗くて重かった。


「・・・どうしたの、じゃないだろ」


普通の女の子なら泣いてしまうかもしれない。
そのくらい、ジョーの声はタダゴトではなかった。


「じゃあ、なあに?」


あいにくフランソワーズは普通の女の子ではなかったので、泣く代わりに微笑んだ。


「・・・持って行っただろ」
「あら、そのことなの」

何を、とは訊かず、フランソワーズはさらりと答えた。

「だって私のだもの。持っていくのは当たり前でしょう」
「・・・誰がパリに持って行けと言った」
「大事にしてるから、心配しないで」
「だけどあれは」
「なあに?」


あれは。


「・・・うちにいるのが当たり前だったのに」


ぽそり、と言う声にフランソワーズは驚く。


「あら!いなくなって寂しいの?」
「そうは言ってない」
「だったらいいじゃない」
「・・・」


ジョーは何か言おうと口を開いたものの、何をどう言えばいいのかわからなくなった。
どう言えばかっこいいのかわからないし、何より、敗色濃厚なのだ。電話してしまった時点で既に勝負は決まっていたのかもしれない。


「・・・だけど」


だけど、あれは。

フランソワーズが気付くまでの間、ずっと自分の元にあって、見るたびにフランソワーズを思い浮かべたものだった。

これを見付けたらどんな顔をするだろう?

そんなことを思いながら。


「・・・もう。ジョーったら」


とうとうくすくす笑い出したフランソワーズ。


「ちゃんと探したの?」
「えっ」
「いるわよ。ジョーのところにちゃんと」
「え、だけど」


バスルームにはいなかったのだ。


「あのね。・・・寝る時にわかるわ」


ジョーは慌てて寝室に向かった。
すると、そこには。


「・・・フランソワーズ!」


枕の上にちょこんと黄色い物体が鎮座していたのだった。


「・・・私はアヒルじゃないんですケド?」


フランソワーズの黄色いアヒル。
ジョーにとっては、見ると何故かフランソワーズを思い出す大事なアイテムとなっていた。
一緒にいる時間が長かったせいだろうか?


「もう・・・妬いちゃうわよ?ジョー」

 

 

 

 


超銀トップへ