「暇つぶし?」
    季節外れの台風が日本列島を縦断した日だった。 ジョーは携帯電話を見つめ舌打ちした。誰もいない室内にその音だけが虚しく響く。 「僕だ」   「それって君と話すことなんだけど」        
   
       
          
   
         朝から強風に見舞われ、空も陸も交通は麻痺状態。
         その日、次のレースのため出発する予定だったジョーも自然災害の餌食になっていた。
         そうとは知らず、電話してきたフランソワーズの耳に聞こえてきたのは憔悴した声だった。
         「ジョー、大丈夫?」
         「ああ、大丈夫。結局、出発できなかったけどね」
         「まあ!」
         「ずっと空港にいたよ」
         「台風だなんてしらなかったわ。大変だったのね」
         「まあね。それで明日出発することになった」
         「そう。気を付けてね」
         「うん。暇で死にそうだけどね」
         「暇なの?」
         「うん」
         「・・・いまホテルにいるのよね」
         「うん」
         「・・・暇つぶし、何かないの?」
         「ないな」
         「・・・暇つぶしじゃないものは?」
         「それはあるさ」
         「・・・そう」
         「そう」
         「じゃあ・・・お邪魔だから切るわね」
         「えっ?」
         「じゃあね。ジョー」
         「おい、待」
         改めてフランソワーズの番号を呼び出し発信ボタンを押した。
         「・・・もしもし?」
         不安そうな誰何する声に液晶画面に僕の表示が出ないのかと、ジョーは少しいらついた。
         「ジョー?えっ、どうして」
         「何で電話切るんだよ」
         「えっ、何で、って・・・」
         「あのさ。僕を殺す気?」
         「どうしてそうなるのよ」
         「さっき言ったろ?暇で死にそうだって」
         「ええ」
         「なのに切るってことは」
         「ちょっと待って」
         「なに?」
         「だって、暇つぶしじゃないのはある、って」
         「あるさ、そりゃ」
         「だから私は」
         「・・・あのさあ」
         ジョーは深く深く息をついた。