「お揃いの約束は永遠?」

 

 

お揃い、かあ・・・。

私は何度目かの溜め息をついた。
手元の雑誌には仲良しカップルの特集がされていて、取材されたカップルはみなお揃いがあるのだという。
洋服や指輪は定番だから外すとして、それ以外に下着がお揃いとかバッグがお揃いとか、ともかく色々なバージョンがあった。


・・・別にうらやましいわけではないけれど。


でも、それらは他人にもわかる「自分たちがいかに親しいのか」を表すものには違いなくて。
いちように誇らしげな表情だった。


「仲良しカップルなら、当たり前・・・か」


だとしたら、私達は仲良しカップルではないのだろう。古今東西、お揃いなんて持ったことがないのだから。


「フランソワーズ。あんまり溜め息つくと幸せが逃げるぞ」


背後からジョーののんびりした声。
私はダイニングテーブルに手をかけて体を捻り、ソファに長くなっているジョーを見た。


「幸せなんて」
「うん?」
「・・・なんでもないわ」

幸せなんて、そもそも私達にはあるのだろうか?

「なんだ。今日はいやにネガティブだな」

それはきっと、仲良しカップルじゃないからよ。

「いったい何が気になって溜め息ついてるんだい?」

ジョーが欠伸とともに立ち上がり、こちらにやってきた。そうして私の肩越しに誌面を覗き込む。

「お揃い・・・なるほど。でも、溜め息をつくほどのことかな」

そうね。
あなたにはつまらない事としか思えないでしょうね。

「持ってるじゃないか。お揃い」
「えっ!?」
「ふふん。その顔じゃ忘れてたな。あーあ、なんて薄情な恋人なんだ」
「だっ・・て」
「二年前だったかな。ほら、色違いでTシャツを買っただろう?」
「Tシャツ・・・」
「クマのワンポイントがついたやつ」

ああ・・・確かに、そういうこともあったわ。

でも。

「思い出したわ。でもそのあと、ちゃんとしたお揃いを買うからねって約束してくれたのに、未だに実現してないのは私の気のせいかしら」
「えっ・・・」

そう。確かあの時は、後でちゃんとしたお揃いの指輪を買いに行こうって・・・

でも、私の指にはリングなんて嵌っていない。


その程度の口約束。


その程度の仲の私達。


本当にお揃いの指輪が欲しかったのではなく、反古にされた約束が悲しかった。
果たすつもりのない約束なら、最初からしなければいいのに。

なんだか酷く惨めな気持になった。

仲良しカップルなんて記事、読まなきゃよかった。


「フランソワーズ」


ジョーがひどく真剣な声を出した。そして、椅子ごと彼の方を向かされてしまう。

「なあに?」
「形にしないと駄目なのか?」
「えっ?」
「僕だってわかるよ。その・・・女性がそういう証みたいなものを欲しがるのは」


・・・ああ、ジョーは今までそうした証を渡した経験が複数あるのね?


「でも、所詮はモノだろう?そんなもの、金を出せば気持ちがなくたって手に入る」

それは・・・そうだけど。

「僕にとってフランソワーズは、そんなモノには代えられない。だからもし、それでもお揃いが欲しいというなら」

言うなら?

「君自身を僕とお揃いにする」

そう言うと、ジョーはいきなり私の胸元をはだけると、腰を屈めて唇をつけた。

「なっ・・・!」

鎖骨のあたりが熱い。

「・・・ふん。ほら、きみの番だ」

そしてジョーは体を起こすと自分のシャツの前を開けて胸元を出した。

「お揃いが欲しいんだろ?」


でも。


「ほら。早く」


私は意を決して立ち上がると、自分と同じ場所に唇をつけた。

 


「うん。これでお揃いだな。めでたく仲良しカップルだ」

でも。

「一時的なものでしょう。すぐ消えちゃうわ」

一過性のものなんて、ただのモノより価値は低い。そんなに軽く見られてるんだ・・・私は。

「ばかだなあ!消えたらまたつければいいじゃないか」
「えっ?」
「モノだったらなくしたり壊したりするかもしれないだろう?僕達はそんなもんじゃない。ほら、これなら、お互いが生きて一緒にいる限り永遠に続くお揃いだ」

誇らしそうに胸を張って言うから。

「もう・・・ばか」

あなたの気持ちはずっと続くって・・・そういうことなの?

信じていいの?


「あ・・・なんだか」

ジョーの頬が少し染まる。

「プロポーズみたいになっちゃったな」


私はそれでも構わないけどね。ジョー?