「お揃いの約束は永遠?」
お揃い、かあ・・・。 私は何度目かの溜め息をついた。 幸せなんて、そもそも私達にはあるのだろうか? 「なんだ。今日はいやにネガティブだな」 それはきっと、仲良しカップルじゃないからよ。 「いったい何が気になって溜め息ついてるんだい?」 ジョーが欠伸とともに立ち上がり、こちらにやってきた。そうして私の肩越しに誌面を覗き込む。 「お揃い・・・なるほど。でも、溜め息をつくほどのことかな」 そうね。 「持ってるじゃないか。お揃い」 ああ・・・確かに、そういうこともあったわ。 でも。 「思い出したわ。でもそのあと、ちゃんとしたお揃いを買うからねって約束してくれたのに、未だに実現してないのは私の気のせいかしら」 そう。確かあの時は、後でちゃんとしたお揃いの指輪を買いに行こうって・・・ でも、私の指にはリングなんて嵌っていない。 なんだか酷く惨めな気持になった。 仲良しカップルなんて記事、読まなきゃよかった。 「なあに?」 それは・・・そうだけど。 「僕にとってフランソワーズは、そんなモノには代えられない。だからもし、それでもお揃いが欲しいというなら」 言うなら? 「君自身を僕とお揃いにする」 そう言うと、ジョーはいきなり私の胸元をはだけると、腰を屈めて唇をつけた。 「なっ・・・!」 鎖骨のあたりが熱い。 「・・・ふん。ほら、きみの番だ」 そしてジョーは体を起こすと自分のシャツの前を開けて胸元を出した。 「お揃いが欲しいんだろ?」 でも。 「一時的なものでしょう。すぐ消えちゃうわ」 一過性のものなんて、ただのモノより価値は低い。そんなに軽く見られてるんだ・・・私は。 「ばかだなあ!消えたらまたつければいいじゃないか」 誇らしそうに胸を張って言うから。 「もう・・・ばか」 あなたの気持ちはずっと続くって・・・そういうことなの? 信じていいの? ジョーの頬が少し染まる。 「プロポーズみたいになっちゃったな」
手元の雑誌には仲良しカップルの特集がされていて、取材されたカップルはみなお揃いがあるのだという。
洋服や指輪は定番だから外すとして、それ以外に下着がお揃いとかバッグがお揃いとか、ともかく色々なバージョンがあった。
・・・別にうらやましいわけではないけれど。
でも、それらは他人にもわかる「自分たちがいかに親しいのか」を表すものには違いなくて。
いちように誇らしげな表情だった。
「仲良しカップルなら、当たり前・・・か」
だとしたら、私達は仲良しカップルではないのだろう。古今東西、お揃いなんて持ったことがないのだから。
「フランソワーズ。あんまり溜め息つくと幸せが逃げるぞ」
背後からジョーののんびりした声。
私はダイニングテーブルに手をかけて体を捻り、ソファに長くなっているジョーを見た。
「幸せなんて」
「うん?」
「・・・なんでもないわ」
あなたにはつまらない事としか思えないでしょうね。
「えっ!?」
「ふふん。その顔じゃ忘れてたな。あーあ、なんて薄情な恋人なんだ」
「だっ・・て」
「二年前だったかな。ほら、色違いでTシャツを買っただろう?」
「Tシャツ・・・」
「クマのワンポイントがついたやつ」
「えっ・・・」
その程度の口約束。
その程度の仲の私達。
本当にお揃いの指輪が欲しかったのではなく、反古にされた約束が悲しかった。
果たすつもりのない約束なら、最初からしなければいいのに。
「フランソワーズ」
ジョーがひどく真剣な声を出した。そして、椅子ごと彼の方を向かされてしまう。
「形にしないと駄目なのか?」
「えっ?」
「僕だってわかるよ。その・・・女性がそういう証みたいなものを欲しがるのは」
・・・ああ、ジョーは今までそうした証を渡した経験が複数あるのね?
「でも、所詮はモノだろう?そんなもの、金を出せば気持ちがなくたって手に入る」
でも。
「ほら。早く」
私は意を決して立ち上がると、自分と同じ場所に唇をつけた。
「うん。これでお揃いだな。めでたく仲良しカップルだ」
「えっ?」
「モノだったらなくしたり壊したりするかもしれないだろう?僕達はそんなもんじゃない。ほら、これなら、お互いが生きて一緒にいる限り永遠に続くお揃いだ」
「あ・・・なんだか」
私はそれでも構わないけどね。ジョー?