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「こら。やっと来たな――遅刻だぞ」
はっとして振り返る。 「――待っててくれたの?」 私の一言に顔をしかめる。 「そんな言い方はないだろう。――待ってちゃいけないかい?」 だって。 もう2時間も過ぎていて―― 「あーあ。髪がぐちゃぐちゃだ」 そっと手を伸ばして私の髪の乱れを直してくれる。 「――ん?どうかした?」 ――だって。 「そんなに慌てて走って来なくてもいいのに」 微かに笑う。少し呆れたように。 「――僕が帰ってしまうとでも思った?」 それは―― 「・・・ごめんなさい」 とにかく謝る。どうしてジョーがまだ待っていてくれたのかよりも遅刻したことを詫びたかった。 「――うん。心配した」 そうして私を引き寄せ、軽く抱き締めた。
***
「で?どうして遅れたわけ」 公園のベンチに座り、私が持ってきたパイを食べながら問うジョー。 ――そう。あんなに慌てていたのに、彼のために作ったパイだけは忘れずに持ってきていたのだった。 「・・・寝坊、です」 「寝坊?」 「・・・最近、レッスンが厳しくて。公演が近いから――」 「――ダメだなぁ。ちゃんと寝ないと」 ジョーはふたつめのパイを食べ終わると、缶コーヒーを飲みながらベンチの背もたれに寄りかかり、私のほうを見つめた。 「――確かに、ちょっと疲れているみたいだな。だったら、僕との約束なんか後回しにすればよかったのに」 簡単に酷いことを言う。 「無理することなんかなかったのに」 「だって・・・」 「別に、今日どうしても、ってわけでもないしさ」 ――ジョーは。 私ほどには会いたいと思ってくれてはいなかったんだ。 それを知る事は――辛かった。 でも、ジョーはそうじゃないんだ。 私に会うのなんか、余った時間の遣い方のひとつに過ぎなくて、どうでもよくて―― 俯いて、膝の上で手をぎゅっと握り締める。泣いてしまいそうだった。 私だけ、楽しみにし過ぎていて・・・ばかみたい。
「でも――良かった」 ジョーの声とともに、私の頭の上に大きな手がのせられた。 「・・・すっぽかされたのかと思って落ち込んだ」 ――え? 思わず見つめた先には、気まずそうに笑うジョーがいた。少し瞳を細めて。 「携帯は通じないし」 すると、胸ポケットから携帯を取り出して見せた。 「ジョー、これ・・・?」 私を待っている間、ちびっ子達と遊んでいて噴水の中に携帯を落としてしまった。と、言いにくそうに。 「だから通じなかったのね」 着信拒否されていたわけじゃなかった。 「――本当に遅れてごめんなさい。・・・怒ってるわよね?」 言うと、私の頭をそのまま抱き寄せた。 「――そんなに僕に会いたかった?」
「――僕も会いたかったよ。・・・物凄く」
マロニエの枝が揺れて――緑色とピンク色に包まれている公園は、幸せで気持ちのいい場所になっていた。
使用している写真は「花と旅の風景画像・風景写真ホームページ素材館」より頂きました。 |