――ひとりでも、見に行ってみようか。
だから僕はみんなを避けるようにギルモア邸を出て、サーキットに通い――そして思い立ったのだった。 あの公園に行ってみようか、と。 テレビの天気予報では、もう桜の見頃は終わっていて散り始めているという。花見をするなら今週いっぱいでしょう――と。
――花見か。
そんなもの、したことはない。
***
車を降りて、向かおうとしたところで――心臓が止まるかと思った。
見間違いか。
幻覚か。
彼女を求める僕の気持ちが勝手にそんな映像を作って僕自身に見せているのか。
頭を振った。
消えない。
ぎゅうっと目をつむった。
消えない。
思いついて、携帯電話を取り出し深く考えもせずに彼女の番号を呼び出していた。
「――もしもし?」 視界の向こうにいる金髪の女性が電話を耳に当てている。 ――ひとりで桜を見ているなんて。 それとも、実は誰かと一緒なのだろうか。
***
「――足りないよ。君が」
勝手に帰るなんて許さない。 僕にはフランソワーズが必要で、――いなくなったらきっと、僕は僕ではいられなくなる。 僕はフランソワーズじゃないと駄目だ。
「・・・わがまま」 僕の声にフランソワーズは小さく笑ったようだった。 「ううん。――いい」 僕は腕を伸ばしてフランソワーズを抱き締めた。 僕がフランソワーズを抱いているのか。 フランソワーズが僕を抱いているのか。 どちらでもいい。 あやすように抱き締めているのは、僕とフランソワーズのどちらだろう? あやされているのはどちらだろう?
「――帰らないわ」
小さく聞こえた声に視界が滲んだ。
桜の花が風に舞った。
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