言っている意味がわからなかった。 何を言っているのだろう、このひとは。 「だって、あなたにはレースがあるんだし、私はパリに帰ってバレエの」 口早に話し始めた私の声に、妙に明るい声が被る。
「――うん。だから、迎えに来た」
桜の花びらが作るピンク色のじゅうたん。 車にもたれて、携帯を耳にあてこちらを見ているそのひとは・・・ 「・・・どうして」 だって、レースのセッティングがあるから、って・・・・
「言っただろう?足りない、って」
風が樹を揺らす。
「駄目だよ。勝手に決めて。――帰るなんて許さない」 「・・・だって」 「――フランソワーズ。君は平気かもしれないけど、僕は違う」
そう言うと数歩で車道を横切り、あっという間にこちら側に来てしまう。 「平気で帰るなんていうから、僕は――」 怒ってる? 「・・・ごめんなさい。でも、決めたの。明日帰るって」 ・・・怒ってる。 「勝手に決めたのは悪いとは思ってるわ、でも、いつかは帰らないといけないし」 なぜ? 「・・・パリに帰りたいの。それだけよ」 「僕が止めても?」 「ええ」 止めるふりなんてしなくてもいいのに。 「――待ってるひとでもいるのか」 「え!?」 待ってる、ひとって・・・ 「僕は嫌だ。・・・行かせない」 「・・・待ってるひとがいるって言っても?」 ぐらりと彼の肩が揺れる。 「――それでも、行かせない」 「・・・ううん。いい」 そうして、どちらからともなくそうっと腕を伸ばし――
・・・勘違いでもいい。 それでも、このひとのそばに居られるなら。
「――帰らないわ」
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