「ごめんね、フランソワーズ」

 

 

ジョーはいつも優しい。
他のひとにはどうなのか知らないけれど、少なくとも私には優しい。

かといって、誤解して欲しくはないのだけど、彼は闇雲に甘やかすわけではない。
弱いひとではないから、ただ際限なく甘やかすのが優しさだなんて間違ったりはしない。

彼の優しさは、強い心に裏打ちされた確かなもの。

 

**

 

「命令だ!」

ジョーの声が響く。
009として決断し命令し従わせる。
一番年下なのに、いつの間にかリーダーになっていた。

彼の命令はいつも絶対。
必ずみんなが従う。どんな事があっても。

従わない事があるのは私だけ。

他の人から見れば、それは単なるワガママなのだろう。
それは、見ようによっては合っていると言ってもいいかもしれない。

 

だけど。

 

強そうに見えて、本当は誰よりも怖がりで繊細で弱虫な彼。
行きたくないくせに先頭切って。
いつの間にかそんな演技も板についてきて、ともすれば、それが彼なのだと信じてしまいそうになるけれど。

でも違う。

ジョーは優しくて強い人だけど、怖がりで弱虫でもある。
だから、自分自身を鼓舞するためにわざと強気な態度に出たり、自分ばかり辛い仕事を引き受けたりもする。
まるで、本当の自分を見せたら負けのように。

私が一緒に行くと、私が傷つくのが心配で怖いからイヤだと言う。
もしも私が残ったら、それも辛くて悲しいくせに。
カッコつけて「ひとりでも大丈夫」なんて笑ってみせたって、全部お見通しなんだから。
そんなことも気付いていない、優しいひと。

 

「きみは残れ」

 

イヤ。

 

「ダメだ。命令だ」

 

イヤよ。

 

「フランソワーズ。頼むから聞いてくれ」

 

イヤ。

 

「・・・どうしてもダメなのかい?」

 

そうよ。

 

「だけど、きみがいたら僕は・・・」

 

そんな悲しそうな顔をしてもダメ。
私がいないと、あなたは絶対無茶をするし、自分を大事にしてくれない。

「・・・わかってるよね?危険だってこと」

ええ。
このミッションがどうなるかなんて散々シミュレーションしたでしょう?

「きみがいても――」

あまり役に立たないのはわかってる。
だけど、あなたの心を守ることはできる。
あなたは優しいから。
きっと、全部ひとりでやってしまう。どんなに危険でも。
――危険だからこそ、自分で全部引き受けてしまう。

「・・・いても、なに?」

じっと見つめる褐色の瞳が揺れる。

「僕は」

 

本気で連れて行きたくないなら、この腕を離して頂戴。それができるのなら。
爪が食い込むほどきつく掴まれた私の腕。
でも、掴んでいるあなたのほうが辛そうなのは何故なのかしら?

私はじっと褐色の瞳を見つめる。絶対に逸らしたりなんかしない。

 

「――僕は?」

 

腕を掴んでいるあなたの手が微かに開いた。私の腕を解放するかのように。
でも、それも一瞬。
すぐにきつく握りなおされる。
その繰り返し。

 

「僕は」

 

唇を噛んで黙るあなた。

 

「――ごめん。フランソワーズ」

 

そう言うと、腕を引き寄せて私を胸に抱き締めた。

 

「一緒に来てくれる?」

 

 

 

 

 

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