「ごめんね、フランソワーズ」
ジョーはいつも優しい。 かといって、誤解して欲しくはないのだけど、彼は闇雲に甘やかすわけではない。 彼の優しさは、強い心に裏打ちされた確かなもの。 ** 「命令だ!」 ジョーの声が響く。 彼の命令はいつも絶対。 従わない事があるのは私だけ。 他の人から見れば、それは単なるワガママなのだろう。 だけど。 強そうに見えて、本当は誰よりも怖がりで繊細で弱虫な彼。 でも違う。 ジョーは優しくて強い人だけど、怖がりで弱虫でもある。 私が一緒に行くと、私が傷つくのが心配で怖いからイヤだと言う。 「きみは残れ」 イヤ。 「ダメだ。命令だ」 イヤよ。 「フランソワーズ。頼むから聞いてくれ」 イヤ。 「・・・どうしてもダメなのかい?」 そうよ。 「だけど、きみがいたら僕は・・・」 そんな悲しそうな顔をしてもダメ。 「・・・わかってるよね?危険だってこと」 ええ。 「きみがいても――」 あまり役に立たないのはわかってる。 「・・・いても、なに?」 じっと見つめる褐色の瞳が揺れる。 「僕は」 本気で連れて行きたくないなら、この腕を離して頂戴。それができるのなら。 私はじっと褐色の瞳を見つめる。絶対に逸らしたりなんかしない。 「――僕は?」 腕を掴んでいるあなたの手が微かに開いた。私の腕を解放するかのように。 「僕は」 唇を噛んで黙るあなた。 「――ごめん。フランソワーズ」 そう言うと、腕を引き寄せて私を胸に抱き締めた。 「一緒に来てくれる?」
他のひとにはどうなのか知らないけれど、少なくとも私には優しい。
弱いひとではないから、ただ際限なく甘やかすのが優しさだなんて間違ったりはしない。
009として決断し命令し従わせる。
一番年下なのに、いつの間にかリーダーになっていた。
必ずみんなが従う。どんな事があっても。
それは、見ようによっては合っていると言ってもいいかもしれない。
行きたくないくせに先頭切って。
いつの間にかそんな演技も板についてきて、ともすれば、それが彼なのだと信じてしまいそうになるけれど。
だから、自分自身を鼓舞するためにわざと強気な態度に出たり、自分ばかり辛い仕事を引き受けたりもする。
まるで、本当の自分を見せたら負けのように。
もしも私が残ったら、それも辛くて悲しいくせに。
カッコつけて「ひとりでも大丈夫」なんて笑ってみせたって、全部お見通しなんだから。
そんなことも気付いていない、優しいひと。
私がいないと、あなたは絶対無茶をするし、自分を大事にしてくれない。
このミッションがどうなるかなんて散々シミュレーションしたでしょう?
だけど、あなたの心を守ることはできる。
あなたは優しいから。
きっと、全部ひとりでやってしまう。どんなに危険でも。
――危険だからこそ、自分で全部引き受けてしまう。
爪が食い込むほどきつく掴まれた私の腕。
でも、掴んでいるあなたのほうが辛そうなのは何故なのかしら?
でも、それも一瞬。
すぐにきつく握りなおされる。
その繰り返し。