|     「ごめんなさい」 そう言っても、ジョーはその「ごめんなさい」が何に対してなのかわからないみたいだった。 ごめんね、ジョー。この「ごめんなさい」は、今朝のこと全部なの。
 王女の名前を言った言わない・・・とか。勝手に先に起きちゃったこと・・・とか。
 ホットケーキが死ぬほど甘いこと・・・とか。
 ジョーの言葉を疑ったこと・・・とか。
 ともかく、全部なの。   ジョーと一緒に居られる時間は少ないから、だから、久しぶりに逢う時は楽しくて嬉しくて、・・・でも、そのぶんひとりになると辛い。逢えない期間が長い時は平気なのに、少しでも顔を見てしまうとひとりになるのが怖かった。
 そんなのきっと、私だけなのに。 ジョーは何とも思ってないのに。 そう思うと何だか悲しくて、悔しくて・・・私だけ片思いなのが寂しくて。だってジョーはいつも「じゃ」と短く言って素っ気無く去ってゆく。
 別れを惜しむようなこともしない。次はいつ会えるかなんて話もしない。
 だから、ジョーを試した。 起きたときに私がいなかったら少しは慌ててくれるかな、って。他の女のひとの名前を呼んだ・・・って言ったら、何て言うかしら、って。ちゃんと否定し続けてくれるかしら。って。
 私が作ったものは全部食べるって前に言ってくれたけど、それっていつでもそうなのかしら、って。
 ごめんね、ジョー。 嘘をついたのは私。 あなたは王女の名前なんて言ってない。私の名前ばかり、ずっと・・・呼んでいた。眠っている時も。「僕にはフランソワーズがいるから」って。(でもいったいどんな夢を見ていたの?)
 ごめんね、ジョー。私、もう少し・・・自信を持ってもいいのよね?
 あなたに愛されている。って。 ――たぶん。     ***     「ごめんなさい」を繰り返すフランソワーズ。いったい、何で謝っているのか見当がつかなかったけれど。
 だけど。 考えてみれば、僕が王女の名前を言った言わないを気にして怒っている彼女って、それってつまり――僕は彼女に凄く妬かれているということで、つまりそれって・・・
   フランソワーズ。 僕が君に夢中だってこと、何度言ったら君は安心するんだろう。フランスなんかに帰らないで、ずっとここに居てくれって言っても君は困らないでいてくれる?
 いつもいつも、君に会えたあとは――次にいつ会えるかそればかり考えてしまっているのに。
 だけど、それを言ってしまったら歯止めがきかなくなりそうで、いつも飲み込んでいる。
 君の夢を邪魔したくはないから、物分りのいい恋人の役をこなしている。
 君の重荷にならないように。
 間違っても、行かないでくれ――とか、君がいないと寂しくて死んでしまうかもしれない――なんて言ってはいけない。
 だからいつも別れる時は、顔を見ない。振り向かない。
 もし、君の瞳を見てしまったら――
     「・・・フランソワーズ」   今度はいつ会えるんだい?――という言葉を飲み込んで、僕が代わりに言ったのは・・・       
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