「残暑」

 

 

 

「ジョー、大丈夫?」


心配そうな声とともに額に冷たいタオルがあてられ、ジョーは目を開けた。

自分の部屋である。
じゅうぶんにエアコンを稼働させ快適な室温が保たれている。

ジョーはひとつ唸るとまた目を閉じた。


「……大丈夫じゃない」


拗ねたような声音に、フランソワーズは眉を寄せるとそっとジョーの頬に手をあてた。

冷たい。

じゅうぶん冷えているように思う。


「寒い?」
「…………暑い」


やはり拗ねているようなジョーの声。
フランソワーズはやれやれと息をつくとジョーの寝ているベッドに腰かけた。

「日本の夏には慣れているでしょう?」

ジョーの返事はない。

「私はびっくりしたわ。パリと比べると随分暑いんだもの。まず湿度が高いわ。汗をかいても乾かないし」

相変わらずジョーの声はない。

「こちらこそ、もうぐったりよ」
「……」
「なのに慣れているはずの日本人が先にダウンしちゃうなんて」
「…………」
「日射病や熱中症って言葉を知らないわけじゃないでしょう?それに、ジョーは特に注意しなくちゃいけない体なのに」
「………………」
「ジョー?」

フランソワーズは目をつむったままのジョーを見つめ、しばらくしてその瞼にそっとキスをした。

「ほんとにもう。……ばかなんだから」

 

日本限定のアイスクリーム。
ふたりでショッピングに出かけて見つけたものの、あまりの大行列に諦めた。
しかし、実はフランソワーズがとても楽しみにしていたのを知って、後日ジョーはひとりで買いに行ったのだ。
炎天下に二時間並んで。
アイスクリームは無事に手に入ったがジョーは無事ではなかった。

「アイスクリームなんて」

どうでもよかったのに、とは言えなかった。
苦労して買ってきたジョーに言うのは酷すぎる。

だから代わりにこう言った。

「一緒に並んで一緒に食べるのが好きなのよ?」

これも本心だった。

「僕はフランソワーズのほうがいいよ」

「ばか」

 


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