D選択中
「――ええと、これは・・・こっち。――で、いいのかなぁ」
僕はランドリールームで、先刻から洗濯するものの選択に追われていた。 それにしても――洗濯ってこんなに難しいことだったかな? 全自動なんだから、ともかく洗濯物をぶちこんで洗剤入れてスイッチ入れてりゃいいんじゃないか? めんどくさいけど・・・やらないといけなかった。 彼女の努力を無にしてはいけない。 なので、僕は洗濯するものの選択を再開した。 それにしても――ウールと普通の服と、何で一緒に洗っちゃいけないんだ?
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洗濯をしたら、今度は干さなければならない――というのは、自然の理である。 なぜだ? と、いうことで、今回は任せることにした。僕の出番は、乾燥が終わったあと。
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乾かすのを洗濯機に一任してしまうと時間が空いた。 そんなわけで、次の予定がもうこなせてしまう。 いつもなら、夕方にフランソワーズとイワンが一緒に行く。 手元のメモには夕方に行くように書いてあるけれど、別に午前中に行っても構わないだろう。 そうして僕は、ひとり商店街に向かった。
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――難問だった。
この場所に来てから、かれこれ・・・時計を見てないからわからないけれど、おそらく10分は優に経っているだろう。手元のメモを見てもヒントになるようなものはなにひとつ書いていない。 ううむ。 フランソワーズ。せめて何かヒントくらいくれても良かっただろう? ――いくらなんでもそれはないか。 しかし。 来る道すがらメモを読んだ時は、こんな買い物さはっさと終わると思っていた。楽勝だと。 メモには「おみそ一キロ、お砂糖一キロ、ケチャップ、お醤油一リットル、ドレッシング(いつもの)、・・・」と重いものが連ねてある。僕が行くからそうなった。
味噌って、どの味噌だ???
嘘だろう? 味噌ってひとつしかないわけじゃないのか。 うちのって・・・どれだ?? 味噌のパッケージを見てもヒントになるようなものが書いてあるわけでもなく、まさか試食ができるわけでもない。
・・・・。
うちの砂糖って、どれだ?
グラニュー糖・・・は、たぶん違うだろう。うん。この茶色いのも違うはずだ。 ――ここも後にしよう。うん。
ケチャップと醤油とドレッシングは同じコーナーにあるようだった。 ――ケチャップ。3択問題だった。適当にそれっぽいのを掴む。 ――醤油。
・・・・・・おい。
醤油は醤油じゃないのか? フランソワーズのメモには、「メーカーによって味が違うから気をつけてね」と書いてある。 ・・・フランソワーズ。だったらなぜメーカーの名前を書いておかない。 ドレッシングなんて、(いつもの)って書いてあるけど、いつもの、ってどれだよ? メモを渡すとき、フランソワーズは心配そうに言ったものだ。
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笑ってくれ。
僕には勇気がないのだと。
散々悩んで決められず――僕はフランソワーズに敗北を認める電話をかけることにした。 携帯電話を取り出し、発信ボタンを押そうとした時、メールが着信した。 誰からだろう。
それは、フランソワーズからだった。
「――!!」
僕は買い物なんかどうでもよくなって、携帯電話を握り締めたまま加速装置を噛んでいた。
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「――フランソワーズ!!」
それでも、部屋へ加速したまま駆け込むことなどしなかった僕をどうか褒めてほしい。 フランソワーズは僕の声に驚いた顔をしたけれど、にっこり微笑んだ。 「ジョー。そんなに慌てなくても大丈夫なのに」 ベッドサイドにひざまずいた僕の髪を優しく撫でる。 「買い物はどうしたの」 ・・・やっぱり勝負だったんだね?フランソワーズ。 「大変でしょう?選ぶのって」 まあいい。素直に敗北を認めよう。 「――脳波通信で訊いてくれたらよかったのに」 だって、きみはこれから・・・ 「――そういえば、まだ教えてもらってなかったな。どっちなのか」 そうしてフランソワーズの頬に唇をよせる。 「そして、きみも元気なら」
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博士もフランソワーズも人が悪い。
でも――
そばにいて、ってことだったのかな。 ね?フランソワーズ。
フランソワーズは笑って、僕の唇にキスをした。
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