B横断中
夕陽に染まる時間帯。 いつものように、買い出しをした私たちは仲良く並んで帰途についた。 信号のない横断歩道。 向こうから来たセーラー服姿の少女たちとすれちがう。 未来への希望に満ちた少女たちは、屈託なく笑いあって通りすぎて行った。 「元気な女の子って可愛いわね。そう思わない、ジョー?」 そうして見つめた隣のひとは、あろうことか頬を染めていた。 それを見た瞬間、私の足はよろけた。 「フランソワーズ!」 ジョーが慌てて手を伸ばし支えてくれた。 「大丈夫?」 私はそのままジョーの腕の中に抱きとめられてしまう。 「ダメだよ、ちゃんと気をつけないと」 私の肩をそっと押して体を離すと、ジョーは投げ捨てた買い物袋を屈んで拾った。 「だって、ジョーが」 セーラー服の少女たちに見惚れていたから。 なんて――言えない。 「僕が、なに?」 ジョーが立ち上がる。 「それにしても似てたよね?」 ・・・何の話? 「さっきの女の子さ。きみにそっくりだった」 髪が金色? それって、たぶん――黒髪に夕陽が反射してそう見えたのよ。 「――あれ?そう見えたの、僕だけ?」 だから、振り返って見つめていたの? 私みたいに見えたから――? 「・・・うわ。これじゃ僕、誰を見てもきみに見えるみたいじゃないかっ・・・」 うわー、なんだどうしよう・・・と頬を染めて困っているジョー。両手に荷物をたくさん提げて。 私も両手いっぱいに荷物を持っていたけれど、手を離した。 「フランソワーズ?ああもう、きみのには卵が入って――」 私はジョーの襟元を掴んで彼を引き寄せると唇を重ねていた。 しばらくして、荷物が道路に落ちる音が響いて―― 私はジョーに抱き締められた。 車のクラクションが申し訳なさそうに響くまで、ジョーは私を離さなかった。
お互いに両手いっぱいに戦利品を持って。
軽やかな足取り。
ふわんと揺れるスカーフ。
あまつさえ、肩越しに微かに振り返って、彼女たちの後ろ姿を見送っている。
そこには何もないはずなのに。
手に持っていた買い物袋なんて歩道に投げ捨てて。
「・・・ええ」
「・・・だって」
「うん?」
心配そうに中身を覗き込んでいる。
優しく笑って。
「まさか。みんな日本人だったじゃない」
「えっ、そうだった?でもひとり、髪が金色の子がいただろう?だから、――ああフランソワーズがセーラー服を着たらこういう感じだったのかな・・・って」
どん、と道路に落ちる音が響く。