@歯磨き中
歯磨きの最中にキスなんてするもんじゃない。 僕は鼻腔をつき抜けるメントールの香りに息ができなくなって、唇を離した。 でもフランソワーズは全然平気みたいで、急にキスをやめた僕をきょとんと見つめている。 「きゃっ。ジョーったら汚いっ」 あなたのせいでしょ、と口早に言うとぐいっと口元を拭い、水を含んで口をすすいだ。 「どうして我慢できないの」 僕も手早く口をすすぐとフランソワーズに向き直った。 「なんで我慢するのさ」 うるさいな。 「痛くないよ」 歯磨き粉がしみたから、とは言いたくなかったから、僕は話題を変えることにした。 「・・・ふうん?フランソワーズは物足りないんだ?」 頬を染めてうつむくフランソワーズ。 可愛いなあ。 いい加減、見飽きてもいいくらいなのに、これがまた全然飽きない。 可愛くて可愛くて。 ああ、食べてしまいたい! 我慢? そんなの、するもんか! キスしたくなったらするまでさ! *** 「・・・なあ。そろそろいいかな。後がつかえてるんだけど」 申し訳なさそうな声に、僕は気付かないフリをしてキスを続けた。 「ごめんなさいっ」 顔が真っ赤だ。・・・可愛いなあ。 僕の視線に気付くとフランソワーズは更に赤くなった。 「ホラ。ジョー、行きましょう」 そのまま白い手が伸びて、僕の耳をぐっと引っ張った。 痛いよ、フランソワーズ。 洗面所のドア付近にいたピュンマが渋い顔をしている。 「・・・全く。朝はやめろ」 ジェットはにやにやしている。 「すまないねー、邪魔しちまって」 言いかけたらフランソワーズに睨まれた。 ・・・まぁともかく、明日から歯磨き中はやめておこう。 ねっ、フランソワーズ? 「知りません!」
なんだか目にも染みるミントに似た香り。
その顔を見て笑ってしまった。
だって、口元も唇も泡まみれ。
おそらく僕も同じ状態だろうけれど。
たまらず噴き出したら、宙に泡の粒が飛び散った。
「だってフランソワーズの顔っ・・・」
「何よ、もう!」
「へ?我慢?」
「私は何も歯磨きの最中じゃなくてもいいでしょう、って言ってるの。・・・歯磨き粉が目にしみて痛いくせに」
「だったら、どうして途中でやめたの?」
「どうして、って・・・」
「えっ?」
「あれが「途中」なんて思うんだ?」
「え、だって、・・・」
「だって何?」
何度見ても新鮮だし、慣れたりなんかしないだろう。
が、フランソワーズはじたばたもがくと唇を離し僕の腕から抜け出した。
「行くってどこへ」
「いいから!」
「気を付けるよ」
「いや、いいよ。続きは部屋で」
朝は洗面所を使いたいヤツがたくさんいるし、待たせるのも悪いからね。