@歯磨き中

 

 

歯磨きの最中にキスなんてするもんじゃない。

 

僕は鼻腔をつき抜けるメントールの香りに息ができなくなって、唇を離した。
なんだか目にも染みるミントに似た香り。

でもフランソワーズは全然平気みたいで、急にキスをやめた僕をきょとんと見つめている。
その顔を見て笑ってしまった。
だって、口元も唇も泡まみれ。
おそらく僕も同じ状態だろうけれど。
たまらず噴き出したら、宙に泡の粒が飛び散った。

「きゃっ。ジョーったら汚いっ」
「だってフランソワーズの顔っ・・・」
「何よ、もう!」

あなたのせいでしょ、と口早に言うとぐいっと口元を拭い、水を含んで口をすすいだ。

「どうして我慢できないの」
「へ?我慢?」

僕も手早く口をすすぐとフランソワーズに向き直った。

「なんで我慢するのさ」
「私は何も歯磨きの最中じゃなくてもいいでしょう、って言ってるの。・・・歯磨き粉が目にしみて痛いくせに」

うるさいな。

「痛くないよ」
「だったら、どうして途中でやめたの?」
「どうして、って・・・」

歯磨き粉がしみたから、とは言いたくなかったから、僕は話題を変えることにした。

「・・・ふうん?フランソワーズは物足りないんだ?」
「えっ?」
「あれが「途中」なんて思うんだ?」
「え、だって、・・・」
「だって何?」

頬を染めてうつむくフランソワーズ。

可愛いなあ。

いい加減、見飽きてもいいくらいなのに、これがまた全然飽きない。
何度見ても新鮮だし、慣れたりなんかしないだろう。

可愛くて可愛くて。

ああ、食べてしまいたい!

我慢?

そんなの、するもんか!

 

キスしたくなったらするまでさ!

 

 

 

***

 

 

 

「・・・なあ。そろそろいいかな。後がつかえてるんだけど」

 

申し訳なさそうな声に、僕は気付かないフリをしてキスを続けた。
が、フランソワーズはじたばたもがくと唇を離し僕の腕から抜け出した。

「ごめんなさいっ」

顔が真っ赤だ。・・・可愛いなあ。

僕の視線に気付くとフランソワーズは更に赤くなった。

「ホラ。ジョー、行きましょう」
「行くってどこへ」
「いいから!」

そのまま白い手が伸びて、僕の耳をぐっと引っ張った。

痛いよ、フランソワーズ。

洗面所のドア付近にいたピュンマが渋い顔をしている。

「・・・全く。朝はやめろ」
「気を付けるよ」

ジェットはにやにやしている。

「すまないねー、邪魔しちまって」
「いや、いいよ。続きは部屋で」

言いかけたらフランソワーズに睨まれた。

・・・まぁともかく、明日から歯磨き中はやめておこう。
朝は洗面所を使いたいヤツがたくさんいるし、待たせるのも悪いからね。

ねっ、フランソワーズ?

「知りません!」