A運転中

 

 

「・・・っ、ジョー!」

 

びっくりして思わず身を引いた。

だって。
いま、ドライブ中なのよ?

 

「赤信号だから問題ない」

 

問題ない、って・・・。
いくらホッペとはいえ、運転中にチュウするなんて。

私はナインが触れた頬を手で押さえながら、抗議するみたいにじっと見つめた。
でも、ナインは涼しい顔で運転するばかりでこちらを見ない。

「んっ?フランソワーズは嫌だった?」

 

え。

 

「い、嫌とかじゃなくて、それはその」
「・・・嫌じゃないなら問題ないだろう?」

問題、大有りでしょう?

「・・・だって、運転中じゃない」
「赤信号でしかしないから大丈夫だよ」
「あ、赤信号でしか、って・・・」
「ああほら。フランソワーズがごちゃごちゃ言うから、また信号に引っ掛かったじゃないか」

そうしてサイドブレーキを引いたあと、当然のように私の頬に唇をつけた。

 

「・・・っ、ジョー!」

 

ナインはにやりと笑うと車を発進させた。
頬を押さえ、きっと真っ赤になっているであろう私を横目で見て。

 

「さあて。着くまでにいくつの信号に捕まるかな」

 

え・・・ええっ?

どういう意味?

 

まさか赤信号のたびにチュウするつもりじゃないでしょうね?

そんなのっ・・・

 

そう言ってる間にも、またもや赤信号が待っていた。
なんだか今日は信号が赤いのが多いような気がするのは、やっぱりナインの言葉のせい?

私はじっとナインの横顔を見つめ、そうしてナインがサイドブレーキを引いた瞬間、その頬にくちづけた。

 

「!?えっ、フランソワーズ!?」

 

真っ赤になって身を引くナイン。

私の気持ちがわかったでしょう?

不意打ちは恥ずかしいんだから。

 

「なっ・・・何をする」
「だって赤信号だから」
「そ、それにしてもだな、いきなりそういうのはっ・・・!」
「あら、赤信号になったらチュウしてもいいんでしょ?」
「え・・・ええっ?」
「さっきジョーがそう言ったじゃない」
「いや、そうだけど」
別にそういうゲームってわけじゃないんだけどなぁ・・・

ブツブツ言うナインの横顔を見つめ、思わず口元が緩む。

そうよ、ナイン。
私だって、あなたにやられっぱなしってわけじゃないのよ?

だって私は003だもの!

 

 

***

 

 

目的地に着くまで赤信号はいくつあったのか。
ともかく、当初の目的のドライブよりも「赤信号でチュウ」ゲームに熱中してしまった二人だった。

そして最後は目的地の駐車場。
エンジンを切った時が勝負だと二人ともわかっていた。
だから、ナインがエンジンを切った瞬間にお互いがお互いに向かい・・・

最後はホッペにチュウにはならなかった。

それはアクシデントだったのか、当然の帰結だったのか。

二つの影はしばらく重なったままだった。