とぼとぼ歩いて来たので、祖母の家に着いたのは予定よりずっと遅かった。 からだというのは不思議なものである。明るく楽しい気持ちの時は足取り軽く弾むようで、長い道のりもあっという間である。が、暗く悲しい気持ちの時はからだが重く何もする気にならない。フランソワーズはいま、後者であった。 追いかけてはいけないと思っていたのに、確かめずにはいられず戻ってしまったのだ。 彼は最初から赤ずきんを待ち伏せてなどいなかった。 彼のいう通り、狩りの途中で通りかかっただけであり赤ずきんに行き合ったのは全くの偶然だったのだ。 誰もいない森のなかに佇み、赤ずきんフランソワーズは自身を戒めた。 もう勝手な期待は持つまいと。 「さ。笑顔よ、フランソワーズ」 祖母の家の前で自身の頬を叩き笑顔を作った。悲しい顔をしていたら心配をかけてしまう。 「こんにちは、おばあちゃん。遅くなって…」 ごめんなさい。 と、続けるはずが言葉にならなかった。 ドアを開けた赤ずきんの目の前には縄でぐるぐるに縛られ気絶している狼と、そのそばで祖母と一緒にお茶を飲んでいる狩人ジョーの姿があった。
「遅かったね。赤ずきん。突っ立ってないでドアを閉めてこっちにおいで」 胸の奥が痛い。なぜ、ジョーがここに? 「あ、狼…」 ジョーはそれを知らないはずだ。 「狩人を甘く見るな」 ジョーが険しい声で言い立ち上がった。 「そのくらいわかってたさ。きみをつけ回していたこともね」 祖母の家に行く道は一本しかない。そして赤ずきんはそこを通って来たのだ。誰にも会わずに。 「狩人を甘く見るなと言っただろ」 ジョーは赤ずきんの前に来ると、少し屈んで正面から彼女の顔を見た。 「道がなくても僕には関係無い」 祖母が当然のように言って笑う。 と、ジョーの眉間にすっと皺が寄った。なんだろう、何か怒らせるようなことをしたのかと思っていたら、 「泣いたな?」 と言われ酷く驚いた。 「え、な、なに?」 どうして泣いた。 「泣いてなんか…」 なぜ、ばれたのだろう。 「知らない。誰かさんに意地悪されたからよ。あ、掴まれた手が痛かったからかも」 ふいっと目を逸らしたジョーにフランソワーズは目をぱちくりさせた。 女に慣れてない?それって…
しかし赤ずきんの顔は真っ青だった。 「平気じゃないだろ、そんな顔して。今日は帰りな」 祖母はそう言うとちらりとジョーを見た。 「いったい、誰のために焼いたんだか」 赤ずきんと狩人の目が合った。 「僕は大好物なんだ」 まずい。これではまるで、狩人ジョーのために焼いてきたかのようだ。が、赤ずきんが何かいう前に祖母が 「だったら、ジョーの家で食べたらいいだろ。狼も来ない。来てもジョーがいれば安心さね」 と言った。これで全て解決というように。
赤ずきんと狩人は祖母の家をなかば追い出されるようにして外に出た。 「あの、」 どうしよう。 しかし、そう考えたのは一瞬だった。
|
おまけ
「もう諦めたらどうだい。赤ずきんはジョーと一緒にいるんだから」 狼と祖母の目が合った。 「え?まさか」 がくんと狼の顎が外れた。 「まったく。男ってどうしてこうバカなんだろうね」
|