「アルバム」

 

 

「好きよ。・・・ジョーは?」

「僕も好きだよ」


ふたり、顔を見合わせて。
そうして、フランソワーズが軽く唇を尖らせた。

「ずるいわ、ジョー。真似しないで」
「してないよ。偶然だよ」

対するジョーも少し拗ねたように答える。

「フランソワーズこそ僕の真似ばかりしてるじゃないか」
「してないわよ。失礼ね」
「だったらこれは?」
「好きよ。ジョーは?」
「僕も好きだよ。・・・ホラ。これは僕が先に好きだって言ったヤツじゃないか」
「あら、そうだったかしら?」
「そうだよ。だから、真似するなよ」

フランソワーズはますます唇を尖らせると、甘えるように言った。

「・・・だって、ジョーと同じがいいんだもの」
「えっ・・・」

ジョーは情けなくも慌てた。
フランソワーズがいつもより数倍可愛く見えたからかもしれない。
ともかく、手元が狂ってせっかくのスナップ写真がぱらぱらと床に落ちた。

先刻から先日の海での写真を床に並べ、お互いに好きなものから拾い上げていたのだった。

「あーあ、もう、ジョーったら」


いったい、いつ誰が撮ったものなのか。
ともかくそこには、二人の仲良しショットが満載だった。


「僕のせいじゃないよ」
「あら、ばらまいたのはジョーでしょう?せっかくまとめていたのに」
「まとめたって言っても好きなのから選んでいただけじゃないか。普通はこういうのって時系列にするもんだろ」
「いいじゃない。好きなのから並べて何が悪いの?ジョーだってそうしようって言ったじゃない」
「そうだけどさ」
「いいのよ、順番なんか。どうせ誰にも見せないんだから」
「え?アルバムに貼ってみんなに見せるんじゃなかったのか?」
「見せないわよ。嫌よ」
「えっ、じゃあなんで・・・」

何も貼っていない、まっさらのアルバムを胸に抱いて、フランソワーズはジョーを見つめた。

「好きな写真を好きな順で貼りたいんだもの。いけない?」
「いや、いけなくは・・・ないケド」

それなら、別にアルバムに貼らなくてもいいんじゃないかと思う。
誰にも見せないのなら。

「私とジョーだけが見るの」
「僕?」
「そうよ。だって・・・ジョーは平気なの?私、水着姿なのに」

ジョーに見せたくて選んだ大胆なデザインの水着だった。

「え!あ!平気じゃないよっ!」

ダメだよ、冗談じゃない!と、散らばった写真をかきあつめる。


「僕のフランソワーズを見せてたまるもんか!」


そうして全ての写真をまとめて、やっと一息ついた。

「フランソワーズ、アルバム貸して」
「イヤ」
「貼るんだろう?」
「今の言葉、もう一度言ってくれたら渡すわ」
「今の、って・・・」

思わずフランソワーズを見つめる。
フランソワーズはじっとジョーを見ている。

「ええと、・・・なんだっけ」
「忘れたふりをしても駄目よ」
「・・・」
「ほら。早く」

ジョーは、もしかしたら自分は勢いでとんでもないことを言ってしまったのかもしれないと思った。
もしかしたら――好きだよ、とか、愛してるよ、とか、そういう言葉よりももっと――重大な言葉を。

「僕の、――ほら」

フランソワーズが促すように言う。
ああやっぱり、その言葉かとジョーは焦った。今さら、ただの勢いで言っただけとは言えない。
それに――本当にただの勢いで言ったのかというと、実はそうでもないのだから。

「ねえ、ジョー?」
「・・・」

ジョーはフランソワーズの視線から逃れようとあさっての方を見るが、それでも結局は彼女の目を見てしまう。
吸い寄せられるように。

蒼い瞳。

海の蒼。

空の蒼。

大好きな――蒼。

「・・・僕の」
「僕の?」

ジョーはごくんと唾を飲み込むと、手に持っていた写真を宙に放り投げ、フランソワーズを抱き締めた。
フランソワーズは一瞬の出来事に、ばらばらと舞う写真に目を奪われたまま何が起きたのかわかっていない。


「僕のフランソワーズ!」


ふたりの周りに写真が散らばる。


「・・・ジョー」


小さな声で答えてフランソワーズはそのまま目を閉じた。
そうっとジョーにもたれるようにして。

ジョーは、抱き締めたものの、手を離すタイミングはどうすればいいのか、それともこのままずっと抱き締めていてもいいものなのか考えていた。
が、すぐに答えは出た。


――僕のフランソワーズなんだから。


フランソワーズは嫌がっていないんだから。


だからきっと・・・このままでいいんだ。僕の気がすむまで。

 

とはいえ、一体いつになったら気がすむのか定かではないのだった。

 

 

 

 

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