平ゼロ「カフェでよそ見」
ある日の日曜日。 ジョーはあまり気乗りしなかったのだけれど、フランソワーズがどうしても行きたいとねだった。 そういう店って混むんだよね…とジョーの気持ちは盛り上がらなかった。 が、フランソワーズの頼みとなれば話は別。 そうしてやっと二人は席につくことができた。 なにしろこういう店には慣れていない。 「いいわ、私はもう決まっているから」 そうしてフランソワーズはゆっくり店内を見回した。 「フランソワーズ」 妙に固い声で名を呼ばれ、フランソワーズは目の前に注意を戻した。 「何にするか決まった?」 さっきまでフランソワーズが注視していたほうをちらと見て、ジョーは頬を紅潮させた。 「――イケメンに弱いとは知らなかったよ」 フランソワーズはちょっと息をつくと、顔を近付けジョーの鼻先を指でちょんとつついた。 「ジョーったら、ヤキモチやきね」 (カフェは和風カフェでした)
二人は連れ立ってカフェにやって来ていた。
どうやらテレビで特集されていた店のひとつらしい。
一時間くらいの行列に加わるのだって苦ではない。
「ジョー、どれにする?」
「うーん。そうだなあ…」
メニューを物珍しく端から読んでいくジョーにフランソワーズは微笑むと
「えっ、そうなの?」
「ゆっくり見てて」
客層は…若者やシニアやさまざまで、カップルと女同士が半々くらい。独りで入るなら平日のほうがいいだろう。
そんなことを考えながら数分。
未だ決まらないらしく、ジョーはメニューに見入ったままだ。
そんな彼を微笑みつつ眺め、ふとフランソワーズはふたつほど離れた席のカップルに目を向けた。
なにやら揉めているらしく、男性が女性に一方的に話している。あらあら、大変ねえ…と思っていると、
「今、誰を見てた?」
「えっ?」
「他のひと…見てたよね」
「見てないわ」
「いや、見てた」
「ま。なによそれ」
「僕がよそ見に気付かないとでも?」
「だから見てないってば」
「いいや見てたね」
「もう…」
「べ別にヤキモチなんかじゃ」
「あら、妬いてくれないの」
「えっ!?いやそんなわけじゃ」
「じゃあヤキモチ?」
「え、いや別に」
「妬いてくれないんだ」
「えっ、そうじゃないよ」
「じゃあそうなのね」
「ちが」
「妬いてくれないのね…」
「ちがうってば、ふ」
『ご注文はお決まりですかー?』
「じゃあもういいよ!ヤキモチで!」
『かしこまりました。ヤキモチ…おふたつでよろしいですか?はい、では少々お待ちくださいね』