「キスの味」

 

 

「・・・キスって」


レモンの味がする。って聞いた事があるけど、違うんだ?

そう言おうとした僕は、彼女の顔を見て黙った。

・・・可愛い。

少し恥ずかしそうに伏せられた目。微かに赤い頬。離すのを忘れているみたいに、僕の胸のあたりのシャツを掴んだままの両手。
僕は、そうっと彼女の髪に触れた。そして、ゆっくりと胸に押し付けた。

柔らかくて、温かくて、いい匂いがして。
抱き締めるのは気持ちいいはずなのに、胸の奥はきゅっと痛くなる。
切なくて、愛しくて、不安になって。

今はこんなに好きなのに、そうでなくなるかもしれない未来が怖かった。
いつか来るであろう別れを思うと泣きそうになる。
だったら、こんなに好きになったりしないで遠くから見ていれば良かったのに。

でも、それも出来なかった。

ただ見ているだけなんて、到底無理な話なのだ。

だって僕は。

 

「キスって、って・・・何?」
「えっ」
「気になるじゃない。途中で言うのをやめたら」


笑いを含んだ声で言われたから、僕は少しムキになって言った。
余裕のある彼女にバカにされているみたいだったから。


「・・・キスって、一回したらすぐまたしたくなるんだなぁって思ってさ」
「え?」


そうして彼女の頬に手をかけてこちらを向かせ、少し強引にキスをした。
今度はさっきとは違う。

さっきのキスより、長くて・・・

 

だって。

さっきみたいな唇を合わせただけのキスでもあんなに可愛くなる彼女。
だったら、違ったキスをしたら、もっともっと可愛くなるかもしれないだろう?


僕はそんな彼女を見たい。


この僕が、彼女を可愛くするんだと確認したい。


だから。


そんな自分の思いのままに、彼女を抱き締めキスを続けた。
彼女の後頭部に手をかけ僕に押し付けるようにして。

離さない。

逃がさない・・・逃げないで。

 

 

 

しばらくして唇を離すと、彼女の頬は薔薇色に染まり、瞳には涙が滲んでいた。


ほら。
やっぱり、さっきよりずっとずっと可愛くなってる。


またキスしたら、もっともっと可愛くなるかな。

僕はそれを確かめたくて、再びキスしようとしたのだけれど。


「待って」


顔を押し戻されてしまった。


「お願い。もう・・・」
「・・・もうダメなの?」
「そういう訳じゃ、ないんだけど・・・」
「だったら」
「お願い、待って」


そこで僕はやっと気付いた。彼女の体に力が入っていないことに。
僕が彼女の腰を抱いて自分の胸に押し付けているから気が付かなかったけど。


「あのね、ジョー」


フランソワーズがゆっくりと恥ずかしそうに言う。


「・・・もう立っていられないの・・・」


僕は可愛い告白に勝利を覚えると共に、もっともっと可愛いフランソワーズを見たいと思った。

ねえ、フランソワーズ。


僕の前だけで僕の力でもっともっと可愛くなってよ。

ね?

 

 

 

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