「貰ったの?」
フランソワーズは差し出された黄色いアヒルを受取り、しげしげと見つめた。 不思議に思い、ためつすがめつしていると、アヒルの底にバーコードが貼ってあるのが見えた。 だって、嘘をつくにも下手すぎる。 微かに赤くなって、前髪の奥から心配そうにちらちらとこちらの様子を窺っている。 くすくす笑って何も言わないフランソワーズ。
「カワイイ・・・。これ、アヒルよね?」
「うん」
アヒルを渡したジョーは、これで役目が終わったというように肩の力を抜いた。
「あげる」
「いいの?」
「うん」
「これってビニール製よね?・・・置物かしら。オモチャかしら」
「お風呂に浮かべて遊ぶんだよ」
「お風呂に?」
「そう。日本の風呂にはよく見られる光景だよ。」
本当かしらとジョーをちらりと見つめ、再びアヒルに視線を戻し、フランソワーズは口を開いた。
「それでわざわざ買ってきてくれたの?」
「えっ、違うよ」
何故か急に慌てるジョーである。
「ええと、その、道を歩いてたら貰ったんだ」
「・・・貰った?」
「そう。ほら、よくティッシュとか配ってるだろ。あんな風に」
「・・・ふうん?」
日本ではそういうこともあるのかしら。
そう思いつつアヒルを見るが、どこにも広告などは見えなかった。
確か、無料配布というのは広告ではなかったか。
「ねえ、ジョー?」
「うん?」
「これ・・・貰ったのよね?買ったのではなく」
「え?・・・うん」
「そう・・・」
フランソワーズはくすくす笑い出した。
どう見ても買ったものではないか。
そんなジョーがなんだかくすぐったい。
「ねえ、・・・気に入らない?」
くすくす笑いは止まらない。