おやすみのキスは嫌い。
そのあと目を閉じて眠ってしまうと次の日の朝がやって来る。 明日も、あなたはそこにいてくれるの? 明後日も、あなたはそこにいるの? 目を瞑ったら、全てが夢だった――ということだってある。 そんな夢を私は見ているのかもしれない。 だから――眠るのが怖い。 いまこの世界が夢だとしても。それでもいい。
「――おやすみ。フランソワーズ」 けれどもジョーは、いとも簡単におやすみと言う。 「・・・いや」 おやすみのキスを頬に受けても、私は彼におやすみは言わない。 「――どうかした?」 優しい笑顔のジョー。赤褐色の瞳がまっすぐこちらを見ている。 「・・・眠りたくない」 明日目覚めたら、あなたはいなくなっていた。なんて、そんなことがあるかもしれない。 「――何が心配?」 ジョーがそうっと私の肩を抱き締める。温かい腕。ジョーのにおい。 「・・・目を瞑っても、いなくならない?」 驚いたように瞳を丸くして。苦笑する。 「朝起きたら、全部夢でしたなんて言わない?」 それでも私の不安は消えない。 「――フランソワーズ。だったら、僕が消えないようにそばにいて。見張っていて。一緒に朝を迎えれば眠るのが怖くなんかならないよ」 おやすみのキスは嫌い。 だけど、あなたの腕のなかであなたを感じて言うなら――ちょっとだけ、好きになろう。
「・・・おやすみなさい。ジョー」
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