おやすみのキス

 

 

おやすみのキスは嫌い。

 

そのあと目を閉じて眠ってしまうと次の日の朝がやって来る。
――でも。

明日も、あなたはそこにいてくれるの?

明後日も、あなたはそこにいるの?

目を瞑ったら、全てが夢だった――ということだってある。
もしかしたら、いま見ているのが全部夢で、目を覚ましたらやっぱりあなたはここにいなくて。

そんな夢を私は見ているのかもしれない。
あの日から、ずっと。

だから――眠るのが怖い。
目を瞑って朝を迎えるのが怖い。

いまこの世界が夢だとしても。それでもいい。
だったら私は、このままずっと眼を瞑らずに起きているわ。
一度目を瞑ったらオシマイなのだとしたら。
ずうっと夢のなかにいたって構わない。あなたがここにいるなら。

 

「――おやすみ。フランソワーズ」

けれどもジョーは、いとも簡単におやすみと言う。
明日も明後日も、その次も。今日と同じ日がやってくると信じて疑わないように。

「・・・いや」
「フランソワーズ?」

おやすみのキスを頬に受けても、私は彼におやすみは言わない。

「――どうかした?」

優しい笑顔のジョー。赤褐色の瞳がまっすぐこちらを見ている。
そのなかに私が小さく写る。それを見るのが好き。安心するから。

「・・・眠りたくない」
「どうして?」
「だって」

明日目覚めたら、あなたはいなくなっていた。なんて、そんなことがあるかもしれない。
だから、賭けはしたくなかった。もう二度とあなたを失うのはイヤ。
私は眠らない。

「――何が心配?」

ジョーがそうっと私の肩を抱き締める。温かい腕。ジョーのにおい。

「・・・目を瞑っても、いなくならない?」
「ならないよ」

驚いたように瞳を丸くして。苦笑する。
私は真剣に言っているのに。

「朝起きたら、全部夢でしたなんて言わない?」
「言わないよ。僕は明日も明後日も、ずうっとここにいる」
「本当に?」
「うん」

それでも私の不安は消えない。
だから、ジョーはいつも――私の腕を引いて部屋の中へ導く。いとも簡単に。
そうしてドアを閉めてから、改めて熱く抱き締めるのだ。

「――フランソワーズ。だったら、僕が消えないようにそばにいて。見張っていて。一緒に朝を迎えれば眠るのが怖くなんかならないよ」

おやすみのキスは嫌い。
おやすみなさいも好きじゃない。

だけど、あなたの腕のなかであなたを感じて言うなら――ちょっとだけ、好きになろう。

 

「・・・おやすみなさい。ジョー」