「嫌いじゃないよ」
「嫌いじゃないよ、その格好」 そう頬を染めて言った後で前髪の中に隠れ、更にご丁寧にも姿を消してみせた彼。 私も彼に劣らず、頬を染めることしかできなかったのだけど。 …と、思いたい。 一緒に朝を迎える日だって少なくないし。 言葉くらい、簡単なはず。 そうよね、ジョー? 「え。き。嫌いじゃ…ない、よ?」 じりじり後退り、背中に壁が当たり進退極まったその時。 「えっ?」 そんなに難しいこと? 嫌いじゃないよ、なんて遠回りな言い方じゃなくて、 好きだよ って近道を通って欲しいのに。 「じゃあ、お前さんはジョーを嫌いなのか?」 「もう、子供扱いしないで」
あれから数年。
少しは成長している。
だって、今では恋人同士だし。
「じゃあ、好き?」
「す…、え、ええと」
「じゃあ嫌い?」
「い、いや、嫌いじゃない…」
「じゃあ、好き?」
「え。す…」
「あ!」
私が振り返った瞬間、突風が襲った。
カーテンが捲れ上がる。
逃げられた。
「ん、もうっ」
ジョーのばか。逃げることないじゃない。
好きって言うのは。
ばかばか、ジョーのばか。
アイスブルーの瞳が見つめる。口元に笑みを浮かべて、からかうように。
「いや、そんなに嫌ならやめればいいじゃないか。他にたくさんいるぞ、ちゃんと言ってくれるいい男は」
「だ、だって」
「うん?」
「き、…嫌いじゃないもの、そういうトコロも」
ああ、もう。
どうやら私も成長していないみたい。