「キライ」
絶対に嫌われていると思っていた。
だって、話しかけても何にも応えてくれないし。 近付くと、その分離れるし。 そっけなくて、冷たくて、どうでもいいみたいに。 戦闘中に助けてくれるのだって、加速装置を持っているから仕方なく――という具合だったし。
だったら別に結構よ?誰もあなたに助けてくれなんて言ってないわ。
そう言ってみた。ある日の午後。 当然、無視されると思っていた。私のことなんてどうでもいい――いつもそういう態度だったから。
どうしてそんな顔をするの? どうしてそんな――傷ついたみたいな顔をするの? だって、私のことなんかどうでもいいんでしょ? だったら、私に好かれようが嫌われようがどうでもいいじゃない。 なのに、そんな顔をするなんて・・・ずるいわよ。 ずるい。
***
「そんなこと、あったっけ?」 私の話に一瞬考え込んで――あっけなく白旗を揚げた。 「あったわよ。――ジョーって酷いひと、って初めて思った記念日だもの」 「アラ、何か言いました?」
嫌われていると思っていたのは、彼の――ジョーの、あまりにもわかりにくい愛情表現のせいで――後に、私はものすごーく彼に好かれていたのだということがわかったのだった。 彼には両親がいない。 そう言っていた。
***
本当は、憶えている。――忘れるはずなんかない。
君を助けるのは、義務なんかじゃない。 どうして? 僕が君に何か――
――そうか、僕は・・・ずうっと君に嫌われていたんだ。 なのに、全然気付いていなかった。
別に構わないはずだった。 関係ない・・・はずなのに。 何故だろう。 彼女の――フランソワーズの顔を見ているのが、ひどく辛くなって―― だから、考えて
考えて
考えて――
それが、君に教えてもらった初めての温かい感情だった。
***
「――もう。どうして忘れちゃってるのかしらねぇ。私にとって、絶対に忘れられない悲しい日なのに」 泣いたと聞いて、本当に驚いているジョー。過去の話で、いま泣いているわけじゃないのに。 もう・・・ばかね。こういう時は・・・ 「――ね、ジョー。抱っこして」 ぎこちなく伸ばされる腕。 「女の子が泣いちゃったのよ?抱っこしてヨシヨシするのが男の子でしょ?」 そうして私を抱き寄せて、しっかりと胸に抱く。 「本当にヨシヨシしなくってもいいの!私は赤ちゃんじゃないんだから」 見上げると、いたずらっぽい瞳に見つめられた。 優しい赤褐色の瞳。 「もう・・・ジョーのばか」 じっと見つめる優しい瞳に、思わず俯きそうになった時―― 「――黙って」 そう小さく言って、ジョーは私の・・・
***
ねぇ、ジョー? 私ね、あなたに嫌われていると思っていた頃は本当に悲しかったのよ? だって、嫌われているのが悲しい――ということは、嫌われたくないということでしょう? あなたに関わる女の子たちがいつも気になって。妬いて。妬いて妬いて――切なくて苦しかった。 ねぇ、ジョー? もうどこにも行かないでね。 私の前からいなくならないでね。 あなたを犠牲に選んだイワンを本気で憎んだ私なのだから。 あなたが本当にいなくなったら――私は自分がどうなるか、何をするか、想像も出来ないわ。 だから。 どこにも行っちゃだめ。 いなくなったりしたら許さない。
大好きよ、私のジョー。
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