「やれやれ。なんとかうまくいったようだな」


張々湖飯店の厨房で、緑色の瞳の男はつるりと顔をひと撫でして禿頭のサイボーグ戦士に早変わりした。
鍋をかき混ぜて明日の仕込みをしていた小太りの男が目を細める。

「お疲れさんアルね」

実際、大変だったのだ。
ジョーのやって来る時間を見計らって演出するのは。

「マドモアゼルの作戦勝ちってところだろうな」
「ホホホ、ただのきっかけ作りアル。作戦も何もないネ」

ジョーの気持ちを知りたいと頼み込まれて立てた作戦だった。
あのままジョーが立ち去ったかもしれないし、何も動じず普通に声をかけていたかもしれない。
その危険性もあったから、フランソワーズにしても安穏としていたわけではなかったのだ。

ふたりはちょっと黙って、そして申し合わせたように向こうの部屋のほうに目をやった。

 

 

***

 

 

――好きなひとはいるの?


いるわ。


――誰?


誰だと思う?


――僕の知ってるひと?


知ってるわ。たぶん。


――・・・・


答えて、ジョー。


――それって


それって?


――・・・きみがいなくなったら凄く落ち込むようなヤツ?


そうね。


――もしかして目が茶色い?


ええ。少し赤みがかってるわ。


――その、もしかしてきみのことを凄く・・・好きなヤツかな。


どうかしら。自信ないわ。


――わからないんだ?


だって何も言ってくれないもの。


――言わないとわからないんだ。


聞きたいもの。

 

 

「きみの好きなひとってつまり・・・」


喉に絡まるような掠れた声。
音になるかならないかのような。
少し震えて。

情けないことに、僕はそんな声しか出せなかった。
だから、フランソワーズの手首を掴んだ手を引いて彼女を近づけその耳元に言った。

彼女にしか聞こえない言葉を。

 

 

フランソワーズは少し黙って、そして小さく頷いた。


「・・・そうよ。ジョー」

 

 

 

 

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