「変わらないもの」

 

 

この景色を見るのが私は好きで、たまにジョーに連れてきてもらっている。
ひとりでは来られない場所だから。

工事の途中で放り出されたビル。
組まれた鉄骨は剥き出しのままで、まるで恐竜の骨のよう。

造られる前に廃墟になった、ビルの化石。
化石のビル。

ここに来たのはほんの偶然だった。
とあるミッションで、幾つもの研究所を調査しなくてはならず、手分けして潜入することになった。
ただ、データが更新されずにいたのか、ここに来てみたら工事の途中で廃棄されていた。
そんなビルだったのだ。
誰がどんな目的で、こんな人里離れた無人の山中におよそ30階立てのビルを造ろうとしたのかわからない。
税金対策だったのか、あるいは何かの隠れ蓑だったのか。
廃棄されて数年が経過しているようで、そもそもデータの残っていたのが不思議なくらいだった。

ともかく、それでも何かあるかもしれないと私はビルの階段を上がって行った。
そうして、最上階に近いところでこの景色を見たのだった。

 

森の向こうに湖があって。

他には何もなくて。

 

静かで。

 

吹き抜けていく風の音だけが耳を通る。

 

このビルを誰が造ろうとしたのか知らない。
でも、もしかしたら・・・この風景を見ていたかった、ただそれだけの単純な理由かもしれない。
もしも事件性がないのなら、そういう他愛もない理由があってもいい。
そうジョーに言ったら、そんなわけないだろう、そもそもここにこんなビルを隠すように建てている事自体怪しいんだと、取り合ってもくれなかった。

そんなことでケンカした私たち。

 

でも、しばらく並んで湖を見ているうちに、どちらからともなく手を繋いで、そして・・・キスをした。

 

そんな思い出のある空間でもあった。

 

以来、たまに一緒に来てはただただ景色を並んで見ていた。

そんな平和な空気が好きだった。

 

 

 


 

 

今はひとり。

 

同じ場所に立って、変わらぬ景色を見つめている。

 

何も変わらない。

 

静かで。

 

耳を通る風の音。

 

 

 

 

変わらないものが悲しいなんて、知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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