「その目に他の誰をも映すな」
〜第11話「幻影の聖夜」より〜
兄が先導してくれたから、私とあなたは会うことができたのよ――と、彼女は言った。
聖夜の不思議。
それは幻と言ってしまうには鮮明すぎたし、現実と言ってしまうには儚すぎた。
だから、聖夜の不思議――と言ってしまおう。
遠くを見つめる彼女の瞳。
いったい何を見つめ何を思ってるのか、その横顔からは窺えない。
だからジョーは、その答えを探すように彼女の顔をじっと見る。
「・・・なあに?ジョー」
視線に気付き、恥ずかしそうに頬を染めて怒ったような口調で言うフランソワーズ。
いつものことだった。
「いや。・・・なんでもないよ」
静かに微笑みを湛えて答えるジョー。
それも、いつものことだった。
「やあね。いつもそう言うんだから」
「だって本当に何でもないんだ」
「嘘よ。私に何か訊きたいことがあるんでしょう?」
「ん・・・ないよ」
「いまちょっと考えたじゃない」
「いや、ないってば」
「ホントかしら」
「ホントだよ」
並んで座るウッドデッキ。
空は蒼く澄み渡り、潮風が頬に心地よい。
「――寒くない?」
「ええ。大丈夫。・・・ジョーは寒いの?」
「いや、平気」
するりと手のひらに滑り込んでくる白い手が冷たかった。
「・・・手が冷たいじゃないか」
「平気よ。ジョーの手があったかいんですもの」
「風邪ひくよ。もう中に入ろう」
手を引くけれどもフランソワーズは動かない。
「・・・フランソワーズ」
「もうちょっとここにいちゃだめかしら」
「え・・・」
でも、と言い掛けたジョーは彼女の横顔を見て黙る。
目尻に浮かぶのは涙だろうか?
「こうして空を見ていたら、また――」
会えるかしら。お兄ちゃんに。
哀しい気持ちで見上げるのはさせたくなかった。
あの時と今は違う。
あの聖夜で見上げた時は、
――フランソワーズ。幸せになるんだぞ。ジョー、妹を頼む。
そう、言っているように思えた。勝手な解釈にすぎなかったとしても、幸せな逢瀬だったはずだった。
もう一度会えないかと――会えないのがわかっているのに見上げるのとは違う。
わかっていてしてしまうのは、ただ哀しくなるだけだ。
「・・・僕がいるから」
「えっ・・・?」
「僕がここにいるから。フランソワーズ。僕を見て」
不確かなものを期待するのは哀しすぎる。
だったら、確かなものをちゃんと――見ればいい。
「僕は消えないから。――どこにも行かない」
だから、僕という確かなものだけ見ていて――フランソワーズ。