「お揃い」

 

 

まるで冬のように寒かったから、僕は君の隣に潜り込んだ。
そんなの慣れてしまっている君は、僕の腕が巻き付いても目を開けなかったね。

頬を寄せても。

熱い息がかかっても。


だからつい、いったいどこまでいったら目を開けるのか試してみたくなった。


抱き締めてみる。


起きない。


髪を撫でてみる。


起きない。


脚を絡めてみる。


起きない。


首筋に唇をつけてみる。


・・・起きない。


「・・・」


いや、起きたかな?


唇を離して注視する君の唇。
しかしそれは、小さく笑いの形になっただけで何も伝えてはこなかった。

僕はがっかりして、なんだかイライラしたから、そのまま彼女の首に痕をつけた。
けっこう目立つところ。

怒ったって、知るもんか。


頬に


額に


鼻先に


瞼に


キスの雨を降らせた。
唇にはしない。いくら僕でも、本気で寝込みを襲ったりはしない。
それに・・・そう、そろそろやっと目を開けそうだから。


「・・・もう終わりなの?」

蒼い瞳が見えたのと、ねだるみたいに訊かれたのが同時だった。


「起きてたんだ?」
「起きてたわ」
「いつから?」
「最初から」

じゃあ、僕が君に腕を回した時から?

「・・・寝てたよね?」
「ううん。目をつむっていただけ」

なんだよ、それ。

「隣にきたのが僕じゃなかったらどうするつもり」
「あらだって、すぐにわかったもの。あなただ、って」
「なんでわかるんだよ、そんなこと」
「・・・匂い。かしら」
「匂いぃ?」

そんなもの、あるのだろうか。

「体温、とか」

僕の顔があまりに途方に暮れていたのであろう。
フランソワーズはくすくす笑いだして、僕の首に巻きついた。

「もうっ・・・ジョーしかいないでしょう?こうして隣に来るのなんて」

そうかもしれないけど。
だけど、匂いと体温の異なる誰かの記憶が君の中にはあるんだね・・・?

「ジョーったら。すぐにわかったのは、・・・来ないかしらって思っていたからよ?」
「え?」
「あなたが来なかったら私が行っていたってこと」
「えええっ?」
「いけない?だって、寒かったんだもの」

そうして彼女は僕の首に唇をつけた。
ああ、同じところに痕をつけるつもりだな・・・と思ったけれど、そのままじっとしていた。

明日の朝、お揃いで首を飾って階下に行くのもいいかもしれない。

 

 

 

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