「ジョー。・・・ここはどこ?」

「――さあ?僕も知らない」

 

車を止めたのは、どこかの公園だった。
海辺の。
海が見える海浜公園――の、ようだった。

目の前に見える海は真っ蒼で、太陽の光を反射してキラキラ眩しい。

流れてくる風は、十分に潮を含んでおり、ねっとりと体にまとわりつく。が、不快ではない。

僕は大きく伸びをすると、フランソワーズの手を引いて公園の中に足を踏み入れた。

 

木陰に到達するまでの道行きは暑かった。

砂が散らばる遊歩道はじっとりと太陽の熱を吸収しており、一歩進むごとに確実にその熱を僕らにも分け与えた。

「――大丈夫?」

心配になって、繋いだ手の先のひとを見つめた。
彼女が履いているのは華奢なミュールだった。殆ど素足に近いから、僕より熱いに違いない。

とっさに手を引いて、彼女を腕に抱き上げた。

「!?――ジョー?」
「熱いから、もう少し先に行くまでこうしてくから」
「えっ、でも」
大丈夫よ。と小さく言う彼女の言葉は聞き流した。
今の彼女の「大丈夫」は、全然大丈夫なんかではないのだから。

 

しばらくそのまま歩いた。

公園内には人影が全くなく、海も――遠くにウインドサーフィンを楽しむ人の影がかろうじて見える程度だった。

 

静かだった。

 

 

***

 

 

木陰の芝生の上に座り込み海を見つめる彼女に声をかけられず、僕は傍らに腰を降ろし、しばし一緒に海の彼方を見つめていた。
ふと視線を感じて隣を見ると、フランソワーズがまっすぐに僕を見ていた。

「なに?」
「ん・・・。何でもない」

そう言って微かに笑むと、そうっと僕に寄り添った。
僕はそのまま腕を回して彼女を背中から抱きしめた。ふんわりと包むように。

「・・・ジョー?」

「なに?」

「気持ちいい、ね?」

「そうだね」

風になびく亜麻色の髪。ふんわりと漂うきみの香り。

 

僕はフランソワーズの肩に顔を埋めた。

 

「――ジョー?」

「・・・・・・・」

 

そうっとフランソワーズの手が僕の手に重ねられる。

 

「――フランソワーズ」

「なぁに?」

 

――こうしていると安心する。
蒼い海と蒼い空と、そして――蒼い瞳。

 

「フランソワーズ」

 

もう一度、呼んでみる。

 

「なぁに?――ジョーってば」

 

くす。

 

小さく笑った気配に、思わず顔を上げる。
見つめた横顔はほころんでいて――いつもの、屈託のないきみがいた。

僕も嬉しくなって、一緒に笑った。

 

 

「――やっと、笑ってくれた」

 

 

彼女のほっとしたような声が耳に響く。

 

「――え?」

「ずっと笑わないから。・・・心配してたの」

そう言って、僕の胸にもたれた。

 

 

 

 

 

落ち込んでいたのは、僕のほうだった。