「ごめんね、フランソワーズ」

 

 

 

漆黒の、音も光も何もない世界に一瞬ぱっと花が咲いた。

ほんの一瞬。

宇宙での爆発は音がしないし、爆発の光も一瞬だけで終わると何かの本で読んだことがある。
これがそうか・・・と、僕はまるでひとごとのように考えていた。

敵は倒したものの、僕も帰れなくなってしまった。

――そうなることは最初からわかっていた片道旅行だったけれども。

 

 

 

 

 

フランソワーズ。

 

ひとりにしてごめんね。

でも、きみの周りには仲間がいるから大丈夫だよね。

 

ひとりだけど、独りきりではない。

 

僕は、仲間に囲まれて微笑むきみの姿を思い浮かべ、少し笑った。
きみの事を考えると穏やかな気持ちになる。
みどりの野原でひなたぼっこしているみたいな、温かい気持ち。

もうきみの目を見ることはできないけれど、でも目を閉じればいつでも思い出せる。

蒼い空のような。

蒼い海のような。

綺麗なキレイな、蒼。

僕はそんな蒼が大好きで、飽く事なくずっと見てた。
きみはいつも、少し頬を染めて、そんなに見ないでと言ったよね。

今になって考えると、あんなに見つめていたから、いまこんな状況下でも思い出せると思うんだ。
僕には先見の明があるのかもしれない。

いや、

案外、こうなることがわかっていたからきみをずっと見ていたのかもしれない。

 

 

僕のフランソワーズ。

 

 

さようなら。

 

 

そして

 

 

・・・ごめんね。

 

 

僕はきみに会えて幸せだった。

きみはきっと、いまは少しだけ不幸せだろう。

 

でも、大丈夫。

 

すぐだから。

 

僕のことなんてすぐ忘れられるから、大丈夫。

 

 

大丈夫。

 

だから、泣かないで。

 

 

 

ああ、地球が近い。
いまこの地球のどこかで、きみは泣いているのだろうか。

 

成層圏を突破した。

 

そろそろきみの眼と耳に僕は捉えられるだろう。

できれば、視ないで欲しいな。
僕が燃えてゆくところなんかきみに見せたくない。

 

視るなよ。フランソワーズ。

 

僕の声だけ聞いてくれ。

 

 

聞こえるかい?

 

フランソワーズ。僕は・・・

 

 

・・・いや、やめておこう。

いま何を言っても残されたきみを繋いでしまうだけだ。
そんな言葉の鎖は要らない。

だから。

 

フランソワーズ。

僕のことは早く忘れてくれ。

 

 

ごめんね、フランソワーズ。

 

 

 

 

009の体が大気圏に突入した。

増してゆくスピードに意識を失うまで5秒。

 

 

 

 

フランソワーズ、僕は・・・、・・・僕のことは早く忘れてくれ。

 

 

 

どうしてそんなことを最後に言ったの?

どうして途中で言い直したの?

本当は何て言うつもりだったの?

 

それを聞くまでは許さないわ。
どこにも行ってはダメ。

ここに戻ってきなさい。

そして、言うつもりだった言葉をちゃんと言って。

 

聞こえてる?

ジョー。

 

 

 

 

あの日から一ヶ月。

009はまだ目を覚まさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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