「嬉しい?」
君は僕が守る。 手を握られて。 瞳をじっと覗きこまれて。 でも。 私は――私の答えは。 「えっ?」 一体、何事? そして、誰? ふっと声を和らげると、今度は優しく頭をぽんぽんされた。 「お前は大人しく守られておけ。そのほうがジョーは嬉しいんだよ」 ジョーの声が裏返る。 「ちょ、ちょっとハインリヒ、いったい何言って」 なんだか慌てているジョー。でも私を抱き締めた腕はそのまま外れることはなかった。 「――なんだよ、フランソワーズ。笑わなくてもいいだろう?」 だって。 「ねぇ、ジョー」 ジョーの心臓がどきどきいってる。 「う……」 困ってる。 もう、いいわ。 「じゃあ、……守られてあげる」 でもね。私もあなたを守るから。 という言葉は胸の裡だけに留めた。 それを飲み込んで、私は言った。
――なんて、真顔で言われて嬉しくない女の子なんていない。
しかもそれが、大好きなひとの口から聞こえてきたならなおさら。
更に言えば、片思いではなくて、思いの通じ合った恋人同士となればそれはもう……
………。
……………嬉しく、ない。
困ったことに、私は全然嬉しくならなかったのだった。
一世一代のセリフのように、真顔で真剣に言われたのに。
けれども、彼の赤褐色の瞳に映っている私は、嬉しい顔というよりどこか困ったようなそんな顔だった。
「フランソワーズ。わかった?」
念押しされる。
「嫌よ」
ジョーの顔が歪む。
「何を言っているんだい」
「だって、嫌なんだもの。そんな――二度と会えないみたいで」
「大げさだなぁ」
ジョーの頬がふっと緩んだ。
真面目な彼も好きだけれど、こんな風に笑う彼の方が好き。
「だって」
でも今はそんな彼に見惚れている場合じゃない。
私は気を引き締めて言葉を継ぐ。
「私は――」
次の瞬間、私は何者かにひどく背中を押されて目の前のジョーの胸のなかに飛び込むことになった。
「ったく、ごちゃごちゃ言ってねーで素直に守られてりゃいーんだよ」
続けて言葉と共に頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。かなり乱暴に。
「――ハインリヒ。女の子に乱暴しちゃ駄目だよ」
「ふん、お前が甘いから守られるのが嫌だなんて言うんだろうが」
「だけどフランソワーズは」
「いいか、女を守るのに本人の許可なんて要らねぇ。そんなもん、こっちが勝手にやってることだ。違うか?」
「…そうだけど」
「ごちゃごちゃ言わせねーでちゃっちゃと守ってりゃいいんだよ。それからな」
「えっ」
「えっ!?」
「フン。図星だろう?」
「ちがっ」
私も離してって言っても良かったのかもしれないけれど、なんだか気持ちが良かったのでそのままそうしていた。
「あら、笑ってたかしら」
「ウン」
さっきまで大真面目だったのに、今は大慌てなんだもの。
「うん?」
「ハインリヒの言う通り?」
「えっ」
「違うの?」
「いや、あ…」
守られているだけなんていや。足手纏いみたいでイヤ。
私はあなたと対等でいたいし、時には頼られてもみたい。あてにされる存在でいたいの。
「ジョーが……嬉しい、なら」