「嬉しい?」

 

 

君は僕が守る。


――なんて、真顔で言われて嬉しくない女の子なんていない。
しかもそれが、大好きなひとの口から聞こえてきたならなおさら。
更に言えば、片思いではなくて、思いの通じ合った恋人同士となればそれはもう……


………。


……………嬉しく、ない。


困ったことに、私は全然嬉しくならなかったのだった。
一世一代のセリフのように、真顔で真剣に言われたのに。

手を握られて。

瞳をじっと覗きこまれて。


けれども、彼の赤褐色の瞳に映っている私は、嬉しい顔というよりどこか困ったようなそんな顔だった。


「フランソワーズ。わかった?」


念押しされる。

でも。

私は――私の答えは。


「嫌よ」

「えっ?」


ジョーの顔が歪む。


「何を言っているんだい」
「だって、嫌なんだもの。そんな――二度と会えないみたいで」
「大げさだなぁ」


ジョーの頬がふっと緩んだ。
真面目な彼も好きだけれど、こんな風に笑う彼の方が好き。


「だって」


でも今はそんな彼に見惚れている場合じゃない。
私は気を引き締めて言葉を継ぐ。


「私は――」


次の瞬間、私は何者かにひどく背中を押されて目の前のジョーの胸のなかに飛び込むことになった。


「ったく、ごちゃごちゃ言ってねーで素直に守られてりゃいーんだよ」


続けて言葉と共に頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。かなり乱暴に。

一体、何事?

そして、誰?


「――ハインリヒ。女の子に乱暴しちゃ駄目だよ」
「ふん、お前が甘いから守られるのが嫌だなんて言うんだろうが」
「だけどフランソワーズは」
「いいか、女を守るのに本人の許可なんて要らねぇ。そんなもん、こっちが勝手にやってることだ。違うか?」
「…そうだけど」
「ごちゃごちゃ言わせねーでちゃっちゃと守ってりゃいいんだよ。それからな」

ふっと声を和らげると、今度は優しく頭をぽんぽんされた。

「お前は大人しく守られておけ。そのほうがジョーは嬉しいんだよ」
「えっ」
「えっ!?」

ジョーの声が裏返る。

「ちょ、ちょっとハインリヒ、いったい何言って」
「フン。図星だろう?」
「ちがっ」

なんだか慌てているジョー。でも私を抱き締めた腕はそのまま外れることはなかった。
私も離してって言っても良かったのかもしれないけれど、なんだか気持ちが良かったのでそのままそうしていた。

「――なんだよ、フランソワーズ。笑わなくてもいいだろう?」
「あら、笑ってたかしら」
「ウン」

だって。
さっきまで大真面目だったのに、今は大慌てなんだもの。

「ねぇ、ジョー」
「うん?」
「ハインリヒの言う通り?」
「えっ」
「違うの?」
「いや、あ…」

ジョーの心臓がどきどきいってる。

「う……」

困ってる。

もう、いいわ。

「じゃあ、……守られてあげる」

でもね。私もあなたを守るから。

という言葉は胸の裡だけに留めた。


守られているだけなんていや。足手纏いみたいでイヤ。
私はあなたと対等でいたいし、時には頼られてもみたい。あてにされる存在でいたいの。

それを飲み込んで、私は言った。


「ジョーが……嬉しい、なら」