「居なくなったら許さない」

 

君はそう言ったね。
僕が目覚めて、再び眠りに落ちる前に。

大丈夫だよ。
たぶん、僕はもう・・・居なくなったりは、しない。

そう言ったのに、それからの君は僕を放っておいてくれなくなった。
いつも隣にいて。
いつも気付くとそばにいた。
他の仲間もそんな君に呆れて・・・・
・・・いや。
他のみんなはそんな君を優しい目で見つめていたんだ。

僕が君の指からすり抜けてから、再びここにこうして戻ってくるまでの間。一体、何があったのだろう。
一度、水を向けてみたけれど誰も何も言わなかったから、それ以来僕はそれを訊くのをやめた。

でも。

フランソワーズ。
君はいったい何を隠しているんだい?

 

 

いい加減寒くなって、部屋に戻ると仁王立ちのフランソワーズに迎えられた。御丁寧に腰に両手を当てている。

「ジョー。もうっ、こんなに冷えて!いったい外で何をしていたの?」
「何、って・・・」

下から見上げてくる蒼い瞳に気押されて、僕は半歩後退した。

「別に」
「別にじゃないでしょう」

一拍置いて、両頬が引っ張られた。

「言いなさいよ」
「何でもないったら」
「嘘。いっつもそうなんだから!何でもない、何でもない、って」
「――じゃあ訊くけど」

フランソワーズの両手を掴んで、少し屈んでじっと蒼い瞳を覗き込む。

「泣いてただろう?」
「えっ」
「いま」
「泣いてないわ」
「嘘だ」
「泣いてないもの」
「いいや、泣いていた。――どうして?」
「・・・何でもないわ」
「ほら。君だって何でもないって言うじゃないか」
「それとこれとは」
「違うのかい?」

両手首を引き寄せ、顔を近づける。

「もうっ、ばか。知らないっ」

フランソワーズは両手を振り解こうとじたばたするけれど、そう簡単には解けない。

「ちょっとジョーっ・・・離してっ」

その耳元に唇を寄せて、僕は囁く。

「――僕はいなくならないよ」

問いかけるようにこちらを向く蒼い双眸。

「僕の居場所は君のところだから」

 

 

そうしていつの間にか抱き締められていた。

「・・・痛いわ、ジョー」

それでもジョーは答えない。無言できつく抱き締めるだけ。

「ジョー」
「・・・許さない」
「えっ?」
「ひとりで泣くのは許さない。どうしてひとりで泣くんだよ。その間、僕もひとりじゃないか」

泣いているみたいに言う。

「僕をひとりにしないでくれ」

ひとり。

あなたが私の指からすり抜けて消えた瞬間。
あなたの身体が炎に包まれるのを視た瞬間。

どちらも、私がいまこの時にあなたの隣にいないのが悔しくて悲しかった。

「しないわ・・・ひとりになんて」

私もジョーを抱き締める。

あなたはあなたで、私は私で。
どちらも代わりなんていない。
いつか居なくなるかもしれないと不安に襲われたとしても、だったらどうすれば安心するのか答えはない。
永遠にお互いを物理的に結びつけておくなんて不可能なのだから。

だったら、この一瞬一瞬を信じていくしかない。
こうして抱き締めあっている一瞬を重ねていけば、それはいつか永遠になるのだから。

 

もう、ひとりでは泣かない。