「決戦前夜」

 

 

 

おそらく最後の戦いとなるであろう日の前日。

僕はフランソワーズと一緒にいた。

仲間たちはどこでどうしているのか知らない。
それぞれ思い思いの過ごしかたをしているのだろう。

ともかく、僕とフランソワーズは二人きりで部屋にいた。

決戦前夜、あるいはこれは仲間の配慮なのかもしれない。

どうみても恋人同士の僕たちに、思い出を作っておけという――

 

――思い出、ねぇ。

そんな風にされても、ならばと安易にのっかる気もない。

そんな気にはなれない。

存外僕はデリケートなんだ。

それに。

 

ぽつねんと窓辺に佇み、飽くことなく窓外に目を向けているフランソワーズ。
その儚げな姿をみると、仲間のお膳立ても虚しくなるだけだった。

いったいどんな勇気をふるいおこせば彼女と思い出作りなんてできるのだろう。
大体、声をかけることすらできないのだ。

戦いに向かない儚い女の子に明日の戦いに向けて何をどうしろというのだ。

 

今からでも遅くない、君は帰れ。

ここから逃げるんだ。

 

喉元まで出かかって、でもいつも飲み込んでいる言葉。
でも、今なら言えそうな気がしたし、言うなら今をおいてないような気もしていた。

だから僕は意を決して口を開いたのだ。

 

が。

 

「大丈夫よ、ジョー。異常ないわ」


くるりと振り向いて彼女が言ったのだ。
笑みさえ浮かべて。


「えっ、な……」
「周囲50キロ、敵の気配は無いわ」
「……」


まさか君は。

僕がどうでもいいことをあれこれ考えていた時にずっと――索敵をしていたのか?
決戦前夜だからと過去やいまのことに思いを馳せるのではなく?


「ジョーは明日に備えて休んでね。私がちゃんと見張ってるから、大丈夫よ」

 

君は。

 

「ジョーをちゃんと眠らせるために私がいるんですからね」

 

ウインクしてみせる君はばかだ。

そして僕はおおばかものだった。


恋人同士の思い出作りなんかじゃない。
どうしたってそうやって過ごしてしまうであろう君を、一時的にせよ戦いから引き離すことが僕のすべきことだった。
それを仲間たちはわかっていて、僕たちを二人にしたというのに。


僕はばかだ。

 

「フランソワーズ」


僕は喉の奥に声が引っ掛かるのを咳払いしてやりすごし、フランソワーズに近付いた。


「そんなこと、しなくていいから」
「あら、だめよジョー。あなたは眠らないと」
「そうじゃない。いいんだ。今夜はみんなが見張りに出てるから」
「えっ、でも…」
「だからいいんだ。フランソワーズ、君は休んでくれ」
「だけど、」


不安そうな瞳に僕は頷いた。


「大丈夫。僕も一緒に眠る」
「……本当?」
「うん。ちゃんと眠る。だからフランソワーズも休まなくちゃ駄目だ」

 

 

 

決戦前夜。

 

だけど僕は、彼女をゆっくり休ませることすらできないでいた。

 

 

 

 


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